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横浜(東神奈川) |
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PL学園 (南大阪) |
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−歴史に輝く伝説の一戦
8月17日。前の日に岐阜の実家から福井へと戻った私は、夜、急に苦しくなって寝込んだ。熱を測ると39.2℃。既に死にそうである。原因は8月14日の甲子園がえりの快速の冷房車であろう。しかし8月18日、期限の迫った課題提出のため、38℃の高熱を押して学校へ。8月19日、熱は下がり、気管支は楽になったものの声がおかしく、37℃代の微熱が続く。そんな中僕とK君(バードネーム雉・以下は雉)の甲子園遠征が決定した。
「甲子園に風邪を治しに行く。」
というのが名目である。一度松阪君を見てみたかったし、古木君、久保君を見たかったこともあるが、準々決勝は一番おもしろいと言うので、一度行ってみたかったというのが一番の理由である。地元のパートナー、H君と比べると知識がないが、雉君も十分に野球通である。福井駅へのアクセス方法などに悩んだが、友達の駐車場から歩いていくということに決定。
8月20日。37.7℃と、前日と比べて若干上がった熱を押して、帰りの汗の冷房冷えに備えて、Tシャツを二枚持ち、長袖を持って、帽子を深くかぶって甲子園へ発つ。降水確率10%なのに、早朝は雨が降り、雨の中を走らなければならないという病人にとって拷問のような環境をすりぬけ、青春18切符で改札をパスし、座りごこちの悪い対面クロスシートの長浜行き快速に乗る。おんぼろ電車の快速は若干不快感を伴う。何とかしろよJR西日本。走れガリバーくんちゃうんやで。
長浜駅で電車を乗り継ぎ、大阪につくと阪神電車初体験の雉と電車に乗りこむ。彼曰く
「東京の方がいい。」
そうだが、そんなものは慣れだろう。僕は甲子園に臨時停車する特急の出る阪神電車が大好きである(タイガースはあんまし好きではないが)。
甲子園につく。雉くんは甲子園にきて別段どんな感慨もないらしい。僕がH君と始めて甲子園に来た高校一年の夏は、ものすごい感動が合ったものなのだが。思い入れの違いというのを感じながら甲子園外野席へ。雉くんは金欠病という重病に侵されており、無料の外野席でしか見れない。が、そんな事言う前に、内野席は人で埋まっていた。
伝説の試合のプレ一ボールを、僕らは見ることができなかった。準々決勝の第一試合には、福井の始発電車では間に合わなかった。外野席には空席がチラホラとあった。
座ったのは外野席はレフト側スタンドの上段。球場全体が見渡せる位置である。いきなり座るとかなり熱い、フライパンのような席に座る。しばし暑さに耐えるためぐっと下を見つめながら座り込んでいたが、まだ中腰の雉君がスットンキョウな声を上げる。
「おぃう!」
「なんじゃいな。熱いのは当たりまえや!」
「横浜負けとるやんけ。」
「おぁ?」
何を言っているのかわからず、すうっと頭を上げる。甲子園球場のホーム側のスコアボードを見る。グラウンドではPL学園の攻撃中。スコアボードは三回表の横浜の0が刻まれているから、現在はどうやら三回裏らしい。
「な、三点?」
PL学園の二回裏の攻撃には3の数字が刻まれていた。僕は松坂からそう点は取れるものではないと思っていた。実際、PL学園は猛打のチームと思われがちだが、岡山城東戦(2-1)や、大阪大会決勝の上宮戦(2-1・二安打)の結果を見ればわかるように、守り勝つチームである。逆転のPLというのも、たとえチームが浮き足立ちそうになっても、最少得点で押さえて、しっかりした守りでそれ以上の得点を許さず、あきらめない野球で逆転にかける、そんなチームであり、KKコンビの当時でも、その伝統が生きていた。常勝の使命を持ったユニフォームにも、豪打の伝統があるわけではないのである。そんなPLからよもや常時140キロを超える快腕松坂が、一イニングに三点取られるとは思えない。何かあったのかと思ってマウンドを見るが、投げているのは紛れもなく背番号一番、松坂であり、調子はどうかと思ってみても、遠く離れた外野席から常時140キロを超えるその球威、コントロールの狂いを探せといっても無理な相談で、見えない、わからない。あまりのショックにケツの熱さなんざ忘れてしまった。
「強えなぁ、PL」
という他はない。それしかセリフが浮かばなかった。ここ一番で見せる強豪の強さというのはこれなのだろうか。三回裏が終了。横浜が反撃を開始する。二番バッター加藤の二塁打と、4番小山のホームランで一点差に追いつく。そんなに簡単に点が取れるのか、という感じである。PLが名門なら、横浜も名門。いくら金属バットでもそう簡単にはホームランなんぞ打てないだろうに。僕はこの二点で流れは横浜に向かうように思った。
が、そう簡単に流れは変わらない。というより、変えさせないのがPLの野球か。三連打でまた松坂を打ち崩す。4回裏に一点加える。松坂は疲れているのか。それとも、PLが速球に強いのか?PL学園が守り勝つチームであるのは疑いのない所であるが、設備の充実ゆえに速球に強いという仮説を立てれば、松坂を打ち崩すのも納得が行く。が、松坂は球が速いだけの投手ではない。実際、外野席から目を凝らしてみると、たまに変化球らしきものを投げているのがわかる。やはり、松坂が調子そのもの悪いらしい。
たいして横浜は下位打線ながら、継ぎ目の無い打線が火を噴く。こちらは二長打を含む三安打で2点を取ってついに同点とする。稲田もそう簡単に点を取られる投手ではない。なんとレベルの高い打撃戦だろう。両チームの好守が散々に相手の好打をさばき、それならと長打で相手から点をもぎ取る。しかも全国を代表する好投手から。あのPLと、あの横浜が、打撃戦をしているという事実は、熱があって炎天下に座っている僕には信じられるような信じられないような、目の前のような、夢の中のような、蜃気楼の向こうの試合を見ているようだった。
7回裏、PLの四番バッター、古畑が、大飛球を放つ。このフライは横浜外野陣のグラブに収まるが、タイミングが合っている。その後、大西、三垣と連続ヒットで1点、ついに勝ち越す。投手は稲田から上重に変わっている。7回表の横浜の三者凡退を見ると、このままPLが押し切るように思えた。
が、松坂の恋女房、小山が8回裏にタイムリー。なんちゅう試合だ。横浜の松阪は8回にデットボールを与えながら、フラフラで押さえている。上重の方が元気だから、若干PL有利か。
しかし、暑い。熱い。暑い。熱があり、真夏の炎天下、既に空席の無い甲子園球場。目の前で、裸の上半身にクリームを塗っている兄ちゃんがいた。「日焼けしなくちゃ」とか、くっちゃべってやがる。どうにも、ほとんど野球を知らない奴らしい。ピントが外れた話をしまくり、ついに
「米作りってすげえもうかるんだろ?米作りは楽なんだろ?」
と非常に訳の分からん会話をしはじめた。米作りはそれなりに儲かるだけである。元より甲子園で日焼けを目論むな。甲子園で訳の分からん話するな。帰れ。大体僕は熱がある。その上、石でできたイスのスタンドで、そのうえ8月の炎天下。そこに人いきれが出来、さらに怒りが加わって、体感温度は55度を越える。
気がつけば延長戦に入っていた。暑い。早く試合が終わらないだろうか、と思って見る。11回に当たっている小山にバントまでさせて奪った横浜の一点には感動したが、これで試合が終わるという安堵感の方が強かった。が、逆転のPLはあきらめない。俄然意気上がる松坂相手に、古畑が三振。次のバッター大西。いくらなんでも終わるだろうと思った。
何でも後日のNHKスペシャルによれば、大西と古畑のあいだにはこんな会話がなされたそうな。
打てない古畑。その目には涙が潤んでいる。大西をじっと見つめて言う。
「頼む、打ってくれ」
大西、コクとうなずき一言。
「打ってくるわ。」
こんな会話一つで流れを持ってくるのがPLの伝統なのか?そいつは凄すぎるぞ。
そんな話は僕らはつゆと知らない。試合の流れは既に横浜にあると思っている。試合が終わると思われた一球を、彼はレフト前に弾き返した。そしてガッツポーズ!かっこ良すぎる。かっこ良すぎてクラクラする。いや、暑いだけか。あまり乱れないはずのPLのスタンドが凄まじくうるさい音を立てて喜んだ。そりゃ嬉しいだろう。こっちも面白くてクラクラする。いや、暑い、頭痛い。病人にはつらいかもしんない、この激戦は。
暑い。早く終われ。今日は古木も見たい、ジュースの一本も買いに行きたい。そう思ったが、安打を打ちながら素晴らしい好守にはばまれて横浜は点が取れず、PLは立ち直った松坂を打てなかった。12回以降なんとヒットを許さない。とんでもない男だ、松坂大輔。
「あいつ何者や?」
前の裸の男が、帰って若干機嫌のいいキジ君は、横浜の松坂を捕まえてこの言葉を連発する。またPLのセカンド、再三の好守を見せる松丸を捕まえては連発する。暑いばかりの僕は、早く終われ早く追われ、そう思っていた。そのうち試合は延長は16回をむかえた。準々決勝の一試合は伝説へと変わっていった。
16回。いいかげんに早く終われという気持ちは消えて、
「ごっつい試合やっとんな」
と延長10回から後ろの席に座るおやじさんと、それに相づちを打つ奥さんの声に乗せられ、興奮してきた。暑さを忘れてきた。ついに横浜が一点をもぎ取る。どうやって取ったかはさっぱり覚えていないが、とにかく一点取ったのは覚えている。後から記録を見ると、どうやら内野ゴロで一点取ったらしい。連覇に燃える、甲子園史上最強のチーム、横浜の執念である。
16回裏。PL12回以降初めてのヒットが、注目の二年生、田中に生まれる。これを犠打で進める。松阪はもうなんだかわからない状態(に見える)で投げている。その証拠に、ストライクを取ったあと、小山がガッツポーズし、それでやっとストライクとわかった、というシーンが見られた。小山は勝利を確信してガッツポーズしたようだ。いつもはまとまりすぎて嫌いなPLの応援も、この時ばかりはまとまりが若干消えて必死さが伝わってくる。松坂の渾身のボールをうった本橋の打球はショートゴロ、この送球の間に、なんと俊足の2塁ランナーの田中が三塁を蹴ってホームへ突っ込む!一塁からの悪送球。なんとセーフ。キャッチャーの小山は守備妨害を訴えるが判定は覆らない。PLの応援団は大騒ぎである。何と同点。いよいよ引き分け再試合か!?
延長17回裏。後藤キャッチャーファールフライ。5安打3打点の小山がバッターボックス。上重から大飛球を放つ。その打球は快音を残してレフトへ!バックする田中!田中は敗走したままジャンプし、レフトスタンドの僕らに顔を見せながら、フェンス直撃のはずの打球をキャッチした。どうにもすごい。すごすぎる。さらに上重は柴をショートゴロに打ち取ったかにおもえた…。が、何と名手本橋が痛恨のエラー(その前からおかしかったと後のNHK特集でやっていたが)。得てして試合はこうして決まる。横浜のバッター常盤は僕らが口を開けて見送る大きな大きな二点弾をライトに叩き込んだ。
松坂は試合を三振で締めくくった。試合は終わった。試合よ終われと思っていたはずなのに、なんか気が抜けたような気がしたが、僕は心から両チームの選手に拍手を贈った。拍手したりする事がキライなキジ君までもが拍手していた。球場全体が拍手した。負けたPL応援団も、勝った横浜応援団も、一塁側スタンドも三塁側スタンドもバックネット裏も、お金を払ってない外野スタンドも、みんなで両チームをたたえた。
いや、すごい試合だった。見れて良かった。一生の自慢になる、そう思った。そして何より両チームのナインに感謝の気持ちと、ご苦労様の一言を思った。