学法石川VS岡山理大付属

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学法石川

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岡山理大付属

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−一点一点また一点

 

 8月14日。この日のメインは何といっても第四試合。正田樹擁する桐生第一、対するは真山龍擁する仙台育英の左右大型投手対決である。98年の80回大会の選手権では、松坂、古岡、杉内、和田、久保、寺本、高橋、多田野といった好投手が出たが、結局怪物というのは松坂一人だった印象があり、それ以外の投手古岡や杉内、その他和田、久保、寺本、高橋、多田野、稲田、上重、藤田とか、それ以外の投手は個性派ぞろいだったが、例年並だったという言い方ができる。99年81回大会では、インパクトは弱いが、レベルでは98年のはるか上を行く投手陣が甲子園をにぎわせた。いや全国各地に点在したと言ったほうがいいかもしれない。選手権組では仙台育英・真山、比叡山・村西、静岡・市川、尽誠学園・森本、東邦・朝倉と岡本、滝川二・福沢、樟南・上野といった強烈な印象を残した右本格派、そして桐生第一・正田、静岡・高木、桐蔭学園・松本といった左本格派と、非常にレベルが高い投手が多い。その他でも、センバツ組としては日南学園・春永、海星・岡本、峰山・河原、横浜・小沢と斎藤、高崎商・松本、玉野光南・福明、福井商・山岸と吉田、今治西・越知のほか、甲子園には出てこなかったが、国学院久我山・河内、高松西・佐々木、延岡学園・宮本、敦賀気比・吉岡、駒大・坂上など細かくあげればキリがないが、将来的な大物になりそうな投手がこれでもかというほどいる。さらに甲子園に出てきた柏陵・清水、長崎日大・崎田と山中、福知山商・藤原、都城・安田、徳島商・牛田、如水館・小町、沖縄尚学・比嘉など、個性派もそろいにそろった。これだけのレベルを持った大会というのはそうそうない。今まで見てきた中で、一番の投手のレベルを誇ったのがこの大会である。

 さて、この日の投手で見るべきものは正田樹、真山龍みたいな、大物だけではない。聖望学園の遊撃兼投手鳥谷、青森山田、松野桐生第一の二年生・一場の他、第一試合、岡山理大付属の早藤、学法石川鶴渕、湯田といった個性派がそろった。また、野手陣も東福岡田中など理大付属森田など、なかなかそろっている。新大阪のホテルから、JRと阪神電車を乗り継いで、甲子園球場。一試合目から大激戦で幕を開ける。

私は岡山のチームというのがほぼ無条件に好きである。関西、城東、理大付、倉敷商と、まあさわやかなチームばかりがさわやかな戦いをしてくれるので、面白い。対してH君は学法石川が好きである。福島県の私立の強豪、通称学石(がくせき)は、いかにも野球留学されそうなところでありながら、ほとんど福島県出身の選手でレギュラーを固める。また、その野球もずいぶん渋い守りの野球、それに公有私立にありがちな、基本すっ飛ばしの大型チーム作りではなく、基本を固めた堅実野球、高校野球の鏡のようなチームで、そりゃあH君のようなコアなファンは好きになるだろう。というより、もともとPL学園も鹿児島実業も帝京もどっちでもよくて、青森山田みたいな多国籍チームが嫌いで、こういう手作りチームが好きなH君は、ただの判官びいきという話もあるが。

基本的にさわやかな対決は、実力も拮抗し、序盤からすごい戦いを演じる。

 選手権で準優勝をあげるに至る岡山理大付属は打撃のチームと思われがちだが、実際のところ、投手と守備もなかなかのものである。結構足もある。これが試合を通じて成長していった、というと「じゃあ最初は弱かったのか?」という事になるがとんでもない話だ。岡山理大付属は、戦力的には戦いを通じて、明らかに弱くなっている。それを精神的な急成長で助けた。岡山理大付属は、要するに、それだけ強くなる下地があったチームであり、最初から戦力は充実していた。

 一方の学法石川は、私には信じられないくらい、強かった。何といっても福島県代表で、当然弱いと思っていたのだが、ところがどっこい、基本ができたすばらしい戦力。投手さえよければ、実力的には十分甲子園でも勝ちあがる実力を持っていた。投手が三人、伝統のエースグラブを争って戦った結果、弱いながらに質も向上、見事甲子園に危なげなく登場。一回表も、果敢に振っていって、三振二つに二塁打一つ。思い切りのいいところを見せ付ける。

 しかしながら早藤君、外野席から見ても球が速そうである。実際のところそんなには早くないので、要するに伸びる球だ、という事だろう。早藤、勢い良く投げる投球フォームで、二回でなんと5奪三振。

 一方の岡山理大付打線は、学法石川鶴渕にどんどん襲い掛かる。一回は無得点だったものの、二回に先頭バッター馬場君がツーベース、それを足がかりに守備の乱れを突いて先制。明らかに理大付ペースと思いきや、学法石川、意外と慌てず後続を断って2回終わって1−0。

「なかなか、野球やな。」

「うん、野球だ。」

地味な試合展開だが、これは野球だ。派手な当りはないが、常に緊張感が張り詰めた好試合。これは、野球好きにはたまらないかもしれない。

 続いて学法石川、先頭バッターは主戦の鶴渕君がツーベース。これを送って、一番真野目君のタイムリー内野安打。セコイ野球で一点取る。こういうけちくさい野球ができるところは強い。で、その真野目君、すかさずスチール。

「強えな、学法石川。」

とはH君。

「どこの代表やったっけ。」

「福島!わざとらしい!石川県じゃねえぞ。」

とオチをいわれてむなしい僕。ともかくも、学法石川、実際に強い。続く橋本君がライト前にきっちり打ってタイムリー、あっさりと逆転。省エネ打線、実に堅実な野球。

対する岡山理大付属は、残塁の多い浪費エネルギー打線である。彼らが試合を通じて強くなっていったのは、この浪費エネルギーを集中できるようになったことが大きいだろう。四回裏、二死から葛城君がヒット、暴騰で進んで、早藤君が四球で塁を埋め、続く一番大北がタイムリーを打ちながら、あとが続かないもったいない試合展開。5回にも二死から馬場君四球で出塁し、森北、河(は、と読む)の連続ヒットで、一点取るが、後続を断たれる。一方の学法石川は、出たランナーがスチールを試みて死んでみたり、こちらはとことん省エネ。試合展開的には圧倒的に岡山理大付属が押していながらも、ボールに向かってボディープレスをかけるような守備、学法石川の古橋君の好守などもあって点差が開かない。

「あのセカンドの子、ええなあ、見とって面白い守備するわ。」

と僕は古橋君を手放しで誉める。

6回にも大北松下の1、2番コンビで点を取る理大附、後を絶つ学法石川。結構緊張感のある試合展開で、7回表ラッキーセブン、学法石川表の攻撃、アルプススタンド。

「おい、何じゃあれ。」

「渋い応援やな、おい。」

「渋いって言うか、軍歌、軍歌やぞ、あれ。」

妙に軍歌・演歌チックな応援歌が流れてくる学法石川応援席。何でもこの歌は「甲子園の道」という学法石川応援歌らしく、これで地方大会でも何度も劣勢を立て直してきたそうだ。堅実野球に軍歌の応援歌とは、いかにも純和風で面白いが、それ以上に面白いのが選手がこれで張り切ってしまうことで、7回表にはこの日三度目の出塁をした真野目君がスチールでチャンスを作る。このチャンスは崩れるが、7回裏は変わった湯田君が岡山理大附属を三人で片付け、続く8回表。

かっきーん。

 軍歌にのって、長谷川君、豪快に一撃。硫黄島奪回作戦である(なんじゃそりゃ)。

「なんか、すげえな。」

と僕ら。勢いに乗った応援が甲子園の流れを一変させる事はよくあるが、まさか軍歌(ちがう!)で勢いを取り戻すとは、渋すぎる学法石川。というか、アルプススタンドの平均年齢は、一体どれくらいなんだ全く。

長谷川君の豪快な一撃というのがまたライトスタンド中段近くまでブチ込む問答無用の一撃だったのに、四番白石君は、セカンドキャプテン大北君を襲う内野安打という、またミステリアスで渋い試合展開、そこによもやの大北くんの失策がからんで、無死二塁。守備と同じくかぶさるように送りバントを決める古橋君に、決死の突撃鈴木君の同点スクイズ。学法石川、純和風野球で、同点に追いつく。

「あれやな、学法石川って」

「福島県やぞ!!」

怒るな!聞け!H君。

「福島県やろ、白虎隊か?」

「学法石川ってのは、確かなあ、石川町にあるから、石川なんやわ。」

「それはしっとるけども。」

「石川町って言うと、会津の方やなくて、確かいわきの方やで。」

「郡山とか?」

「そっちの方かもしれん。」

ほおお。さすが地理マニア。ともかくも、学法石川、妙にかっこいい。

 

岡山理大附属の方は、学法石川の5番の二年生、スイッチヒッター小柄で好守のセカンド古橋君のところに打球を打って取られて討ち取られ、なんか知らないけれども、流れをつかめない。なにせ、学法石川、ノーエラー。

しかし、ミスは最後についに出てしまう。岡山理大附属、三番西川左バッター特有の内野安打から、投手湯田、痛恨のボーク、続いて痛恨の暴投。下手な勝負ができなくなった学石は、塁を埋めて無死満塁。

「なんやな、結局流れだけは岡山理大がもっとったな。」

もともと岡山理大附属好きの僕がこう言う。

「ちょっと、最後がな。」

と苦笑するH君。岡山理大附属、打者は、8回失点のもととなるエラーをしたキャプテン大北。思い切りよく振りぬいて、見事なサヨナラヒット。

なかなか面白かったな、とはH君の言葉。目に見えないドラマがたくさんありそうな、そんな試合。こういう試合が、球児を成長させる。どっちもがんばれ甲子園球児。そして、三年間ご苦労さん。

 

 岡山理大附属は、この試合では全く目立たなかった森田君の大活躍もあり、春準優勝校の水戸商を撃墜、滝川二、智弁和歌山をミラクル気味に破って準優勝を手に入れる。決勝の桐生第一戦はどうかと思うが、あんがい、岡山理大付の原点は、この試合にあったのかもしれない。

 

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