ヤマナカ式変化球各論 カーブ編

 カーブという、最もポピュラーかつ、最も奥が深い変化球のお話をしてみたいと思います。

 

カーブとスライダー

 カーブという変化球の変化のイメージをスライダーとダブらせる人が多いのですが、実際のところ変化原理としては大きく違っています。ボールに回転をかけ、その回転で進行方向の空気抵抗を小さくして変化させるのがスライダーで、ボールの進行方向と違う回転をかけることで進行方向の空気抵抗を大きくしてブレーキをかけて変化させるのがカーブです。簡単に言えば、スライダーは横回転のストレートです。縦スライダーは縦回転のストレートです。腕を振る方向にそのまま回転をかけるので、スピードを変えずに曲がっていきます。カーブはそうではありません。ストレートを投げるのですが、回転だけ横にするわけです。腕を振った方向と違い回転がかかるので、ボールは行きたい方向にいけないでスピードを落とし、やがて回転方向に曲がり落ちます。スライダーは最初から横向きにボールを投げているのに対し、カーブはまっすぐを違う回転で投げるボールなのです(※1)。

 よく子供がカーブの投げ方(ボールをひねる投げ方)でスライダー原理のボールを一生懸命投げています。そうすると、回転はかかっているのに曲がらないという子供には不思議な現象が起こります。これは、ボールが遅いから空気抵抗が生じないためです。なまじ球威がある投手はこの投げ方で空気抵抗を生じさせるのですが、いかんせん投げ方に無理があるので、打者はボールの変化を眼で追うことができ、簡単に痛打されます。ただし、左投手に関してはこのボールが右打者に対し、向っていくボールであることからなかなか打てない。だからこのボールを多投しつづけます。これがいわゆる「左投手特有のカーブ」です(※2)。が、基本的にはこれはカーブではなく、カーブの投げ方で投げるスライダーです。

 まっすぐ投げているのに横回転がかかっているため、ボールが揚回転(ホップ回転)しない、そのため球速が落ち、抵抗が大きくなって曲がり落ちる。これが正しいカーブです。これを理解していないと正しいカーブは投げれません。

 (※1) これと同じ理屈がシュートとシンカーです。ただ、シュートの場合、スライダーほど回転はかけやすくないですし、シンカーもまっすぐを逆方向にひねることなど不可能なために、抜いて投げることしか出来ない、そのため、どちらも変化は小さくなります。

 (※2)右投手の場合、大体そういうカーブを投げる投手は途中であきらめてスライダーを投げ始めます。左投手はあきらめずにこのスライダー原理のカーブを投げつづけます。結果、左投手がスライダーを投げる確立は、少なくなります。また、いわゆる「左投手特有のカーブ」を投げる投手は、8割がた肘に爆弾を抱えています。それだけ、スライダー原理のカーブとは、肘に負担のかかるボールです。

 

カーブの種類

 ボールの進行方向がまっすぐなのに対し、回転方向が横なのが、カーブですが、一口にカーブと言ってもいろいろあります。 横に回転がかかるのがご存知一般的なカーブです。

 よりスピードが速く、より回転が多いと、空気抵抗は大きくなります。より速く大きな空気抵抗のカーブ、これがブレーキカーブです。急ブレーキをかけて曲がり落ちます。

 それに対し、ひねりを加えながら、すっぽ抜いてやる、これがスローカーブです。スローカーブの変化原理はまっすぐ飛んでいるはずのスローボールに、抜いた際に生じた回転が空気抵抗を生んでドロンと落ちると言うものです。ボールのスピードに対し回転がストレート、スライダーに比べて多いのが、この変化を生む秘密です。この場合、回転がなければ無いで空気抵抗を生みますし、あればあるで空気抵抗を生みます。が、しっかりまっすぐ投げないと、回転だけして曲がらないという最悪の棒だまに成り下がります。

 親指でひねり上げて縦回転を加える投げ方もあります。これが落ちるカーブ、通称ドロップです。ドロップを投げるのは親指ではじいてやるだけなので投げ方そのものは比較的簡単ですが、手首を返さないわけですから、練習しないとボールをリリースできません。とんでもない暴投になる場合もあります。

 

カーブの投げ方

 カーブは、ストレートが速ければ速いほど投げやすいボールです。なぜなら、それだけ空気抵抗が大きいからです。また、それだけ難しいボールであるともいえます。読んでいる方の中には、ストレートとカーブでは全然スピードが違うのに、何でカーブはストレートに別回転と言う理屈なんだ、と不思議に思う方もおられるかと思いますが、ストレートのスピードと言うのは、もちろん肩や腰、肘の回転が大きな要因ですが、リリースの瞬間の指で押す力、というものも大きく加えられます。つまり手首の力です。カーブは、ストレートとまったく同じ腕の振りで投げますが、もちろん手首は返しません。ひねります。ですから、ストレートほどのスピードは出ないのです。(スライダーは手首を返して回転を加えます)。

 ストレートが速い投手は、それだけ腕、腰、肘の回転の力が大きい投手です。ですから、140キロを投げる投手はカーブでも120キロ台と言うすごいスピードの、曲がるカーブを投げます。ただ、これには向き不向きがあります。背筋を使って手首をめいっぱい返して投げるタイプの投手は、カーブを投げようとするとフォームを崩します。こういう投手はカーブを投げるのはあまり得策ではありません。

 カーブの投げ方は、

1 指の右側に縫い目を当て、ボールをまっすぐ投げる

2 リリースの瞬間、手首、指をひねってボールに横の回転をかける手首は返さない。ドロップの場合は親指ではじく。

以上です。ボールをまっすぐ投げるのがポイントです。まっすぐ投げるのに、手首を返さないと言うのは相当難しいものですが、まっすぐ投げると言うことはそれだけストレートと見分けがつきにくいということでもあります。良い投手と言うのは変化球とストレートを同じフォームで投げます。そういう観点からも、また、故障しないためにもボールはまっすぐ投げることです。

 ですから、カーブには練習が必要です。まずはボールに回転をかける練習です。ボールを横に回転させてそのまま投げ込むのは簡単です。私もスライダーは投げることが出来ます。が、カーブは投げれません。ボールに回転がかからないからです。ドロップは投げることが出来ますが、コントロールできません。地道に練習を重ねる必要があります。カーブとはハイレベルな変化球なのです。

 それに対して、比較的簡単に投げれるカーブはスローカーブです。

投げ方はいっしょです。

1 指の右側に縫い目を当て、まっすぐのフォームで投げる

2 ボールを人差し指と親指の間から抜いてやる。このとき手を捻っても良い。ボールの回転を意識しながら抜くこと

スローカーブとはカーブの投げ方をするチェンジアップです。ボールを指で押さずに空中においてくればいいのですから、楽なことです。ただし、リリースポイントを固定させないと暴投になります。コントロールは難しいです。また、リリースポイントは遅ければ遅いほど、変化は大きく、そして見分けもつかないで有効になります。じっくり練習しましょう。ただし、カーブより簡単です。 

 スローカーブとは、カーブと同等、投手によってはカーブより有効な場合すらあるのに、投げる人が少ないボールです。何故かと言えば、スローカーブとは遅いカーブだと思っている人がほとんどだからです。カーブと言うのはまっすぐに回転をかけてやるボールですから、遅ければ遅いほど変化は小さくなります。だからそういう認識ではいつまでたってもスローカーブもまともなカーブも投げれません。

 ボールは抜くことで回転を与えることが出来ますし、逆に回転させないことも出来ます。要はボールに揚回転を与えなければいいわけです。これを中途半端に手首を返すと、回転だけしてスピードは落ちず、曲がらない変化球になります。ボールに横回転を与えるのは難しいことです。ストレートと同じ投げ方で、どれだけ下から上への回転をかけないですむか、まずはそれからやってみましょう。

 

戻る