頑張れ応援団!

プロ野球の鳴り物応援について

 

 よく鳴り物応援の廃止を唱える人が特に野球識者及び野球通の人が言うのだが、私は鳴り物応援大いに結構だと思う。それは何故か?それは野球は応援こそ醍醐味だからである。また、鳴り物のない応援、つまり応援の音頭を取る人がいない応援は、観戦スタイルとして成り立たない、ということも指摘したい。

 

 野球を見るのが好きな人というのがいる。これは巨人という球団より野球が好きで、阪神より野球が好きな人だ。このへんの人は鳴り物応援に対し否定的であったり、経験者である場合が多い。野球に対して詳しい人というのはカーン、とかパシッという、バット、グラブの衝突音なんかを聞きたがるものだ。が、考えても見よう。これら一部の人たちの為に例えば甲子園球場が鳴り物応援ナシとなったら。

 では、そういう観戦スタイルを持っている大リーグの風景を見てみよう。球場は、静かに観戦する、というよりはザワザワして騒がしく、ファールボールを取る為だけに内野スタンドに入っている人たちの為に所々にグラブの花が咲いていてまともに座ってみれない。敬遠、内角攻めなどやろうものなら大ブーイングが飛び、バントでも大ブーイング。そこに乱闘でも起きた日には間違いなく観客がグラウンドに乱入する。

で、試合がゆっくり見れるはずなのに回の合間には野球と全く関係ない動物たちが踊るのを見て盛り上がる。

また、ベースボールにつれてって等の歌を歌ってもりあがるのだが、この辺は六甲おろしを歌うのとたいして変わらないので問題にしないでおこう。既に日本でも行われていることだ。

 

 試合中は野次が飛び、選手への誹謗中傷は止まらず、バットの音、グラブの音もそこそこに、ポップコーンを食べる嫌な音ばかりが耳に入るだろう。野茂フィーバーがそうだった。野茂の全盛期はそれはもうすごい持ち上げられ方であったが、ひとたびスランプに陥ると、野球をやるのも嫌になるほどのブーイングと、マスコミの批判が飛んでくる。一流の選手でもそうだ。凡退しても文句が言われないのはリプケン等の一部の選手だけだといってよい

 

 それだけエンターテイメント的に野球を見る人が多い大リーグだが、割に客は入っていない。試合だけ見るのだったら、優勝争いでもしていない限りは客は球場に来ない。これはほぼ間違いない。だから大リーグでは必死で戦力補強する。おかげで年棒はものすごい額になるが、人気球団になる為にはそれぐらいの努力は仕方ない。故にアメリカではFA、トレードが盛んであるし、当然そうなるとドラフトは完全ウエーバー制でも文句はない。

 

 

 しかし日本でそんな事が果たして出来るか、というとどうか。不思議なもので、鳴り物応援をやめてくれという人のほとんどがドラフト制度とFA制度に不満を持っている。しかし、鳴り物応援を止めたらどうなるかというと、FAと、大型トレードがなければならないものとして確実についてまわるのである。当然、ドラフト制度もそのままではいけなくなるので、変わって行く事になり、アマチュア選手にとって全く理不尽な状況が生まれてくるはずだ。

 そうしていわゆる「営業努力」という物ができる球団だけが残っていく。この場合、戦力補強だけが問題であって、ロッテのようなファンサービスというのはあまり問題にされない。そうなると日本というのは球団の身売りとかはあまり行われないために、営業努力の行えない弱い球団は手放すに手放せず、加速度的に弱くなっていく。しかも、日本ではもともとの全国的人気球団というものあるからそこにだけ選手が集中し、やがてチーム格差は雲泥の差となって現われる。あまり地域密着型の球団というのも多くない点が、ここで致命傷になるわけだ。アメリカとは地盤が違うのである。

 自然、いわゆる「野球ファン」にとって「均衡な戦力実現不可能」という全く嫌な状況が生まれ、阪神ファン、巨人ファン、中日ファンだけが喜ぶ状況がやってくる。

 

 

 

 ここまで書けばおわかりであろう。僕が言いたいのは「残念ながら一般の人にとって野球というのはそんなにおもしろいものではない。」という事だ。プロ野球の面白さの神髄は、その応援にある。野球に限らず、サッカー、あるいは大相撲、バレーもそうだろう。例えばサッカーなど、日本代表ばかり応援されて地方のチームは熱狂的なサポーターを持つチームにしか客が入らない、という状況は、応援するに足るか、足りないか、というそれだけのものであることを如実に表しているといえる。また客が入っているチームこそ、応援団が過激である事も周知の事実だ。熱狂的でない人たちが球技場を埋め尽くすサッカー場は見た事が無い。バレーに至っては日本代表以外が応援されている所を見たことがない。日本代表が勝つか負けるかが見たいのであって、バレーそのものが見たい人などはほとんどいないだろう。大相撲でもそうだ。例えばどれだけレベルが高くても力士の名前も知らずに国技館に行ったら、さぞつまらぬことだろう。これが、プロレス、K−1、陸上など、力と力のぶつかり合いという形になってくれば応援とかなどどうでも良い次元になってくるだろうが、日本プロ野球はそうはいかない。何故なら、そこまで面白くないからだ。

 日本野球が面白いのは、野球そのものではなく、そのペナントレースである。これは都市対抗野球でもそうだし、高校野球でもそうだ。高校野球ファンというのは日本におそらくほとんどいまい。ほとんどが地元チームを応援する「にわかファン」であったり、あるいは「怪物ファン」「アイドルファン」である。野球だけがみたいならほとんどの試合がいっぱいにならなければおかしい。プロ野球ペナントレースに至ってはますます「巨人ファン」「阪神ファン」などの「特定チームファン」がほとんどで、野球を見るのが好き、という人はほとんどいまい。

 おそらく、野球ファンという人は、おそらくひいきチームが西武であっても平日のナイター「日本ハム‐ロッテ戦」を見に行くだろうが、そんな人はほとんどいない。日本ハム、ロッテ戦を見に行く人の5割がロッテ、日本ハムファン、2割が修学旅行客、あるいは球場見物、1割が選手個人のファン、そして残りの一割のうち、5分までが花火見物で、やっと残りの5分が野球そのものを見に行く人だろう。

 

 

 つまり、日本野球はほとんどが応援を目的に球場に訪れている。8割までがそうだ。断言できる。

 で、その応援の仕方が静かであるか、静かでないかである。では、鳴り物がない甲子園球場で阪神が負ける姿を想像していただこう。

 

 甲子園球場で行われる阪神とヤクルトの一戦。その日は開幕戦だが、試験的に鳴り物応援およびメガホンの使用が禁止された。試合が始まり、一番坪井がヒット、多いに沸き上がるスタンド。二番田中に「打てよー」の声。しかしこのあと石井一久は二番田中、三番矢野、4番新庄が倒れる。三塁側は石井一久に対して心無い声が響き、一塁側では酔っ払ったおじさんが

「新庄!新庄!お前なにボール球に手ェだしとんねん!」

等と野次が飛ぶ。その日、ヤクルトは好調で4回までに8−0と大量リード。観客の大半は帰り野村監督には心無い野次が飛びまくる。8回、この日3三振の新庄が打席に立つ。が、空振り三振。

「新庄!おまえやる気あるんか、やめちまえ」

それですめばまだいい方で

「新庄!志保ちゃんの前でしか張り切れんのか?」

という悪質なもの、当然ここには書けないような野次まで選手の耳に届くだろう。

 

 さて、良識ある野球ファンの皆さんは、この雑音の中、最後まで気持ちよく野球を見る事ができますか?僕にはできない。勝っている時は良い、しかし負けている時はこんなものだ。しかしファンという物は、負けている時こそ応援すべきものだろう。だが、フーリガンが増える事は会っても、負けているチームに本当のファンというのはなかなかつかないものである。応援がないならなおさらだ。本当の野球好きなら一度行ってみるといい、鳴り物の無い二軍の試合などを。

 見ているのは、一部ミーハーと呼ばれる熱狂的選手応援徒、その他熱狂的そのチームのファンがほとんどで、「レベルの高い試合のナマの音を聞いてみたい」などといっているような野球ファンはほとんどいないはずだ。そこでは心地よいグラブの音、乾いたバットとボールの衝突音、すべて聞こえる。しかしそれ以上の気になり方で、野次が聞こえるはずだ。

 僕がウエスタンリーグ中日VS近鉄戦を見に行った時には、

「お前それじゃ一軍に行けんぞ!」

「おいおい○○(相手チーム投手の名前)!デットボールぶつけるコントロールしかねえならやめてまえ!」

という野次がまあ間断無く飛んでいた。この声というのは、結構選手に響き、選手のためになるものだし、同じチームのファンなら、まったく同じ事を思うわけだから、別にこの状況が悲惨な物でもなんでもない。実力が無ければ食べていけないプロの選手ならもらって当然の野次だ。球団愛すあまり、フーリガンが生まれるのもすべて球団の営業努力が足りないからだ。

 が、純粋に野球を見に行った僕には、このセリフがひどく残酷に聞こえてしまい、とても落ち着いて野球など見れなかった。僕は純粋に中日ファンであるが、それ以上に野球ファンであり、まだ若い近鉄選手に野次が飛んでいる時など、思わず野次を言っている人間にけんかを売りたくなった(職業野球なんだから言われて当然とは思うが)。また、近鉄ファン、中日ファンは喧嘩腰の応援合戦を繰り広げた。途中たまにトランペット応援など聞こえた時には野次がやみ、ホッとしたものである。特に近鉄松本投手(日本航空高校出身)に心無い野次が飛んだ時には、見てられなかった。

 

 

 日米野球のような「野球ファン」しか集まらないイベントだけを見て、応援が無いほうが良い、なんて勝手な事は言わんで欲しい。日本のトップレベルの選手と、アメリカのトップレベルの選手が戦えば、見てるだけで楽しいのは当たり前だ。

 今の日本野球程度のレベルでは応援、とりわけうるさい応援がプロ野球を支えている、という状況がそんなにわからないのなら、大リーグだけ見てれば良い。大リーグでも優勝争いでもしてない限り、結構お粗末な試合が多い。日本との野球の違いで、緊迫感は日本の方があるかもしれない。実際にファールボールの取り合いが行われる大リーグのスタンドで押されながらダイナミックながらも大味な試合を見てくると良い。むしろ日本の内野席の方がゆっくり野球が見れるはずだ。

 せわしなく動き、内外野区分無く暴れる客もいる大リーグの内野スタンドなどで野球などゆっくり見たくない。日本の外野席よりも暴れてみたいところだ。一番盛り上がるのがマスコットがグラウンドで暴れている時だなんて、それこそ何を見に来たか分からない。営業努力が足りないから、チームが弱くなる、とかなんとかいって選手の年棒が青天井に高くなっていくのを助長する「本当のアメリカ大リーグファン」なんか、はっきり言ってもうこれ以上ないくらい嫌いだ。読売球団も嫌いだ!(※1関係ないけど)。

 

 

 実際、ロッテの大連敗のとき、選手を何より励ましたのは、外野席のユニークな応援のロッテ応援団だった事は疑いようの無い事実だろう。ロッテを支えたのは内野席ファンではなく、外野席ファンだったのだ。広島カープの応援団が、立ったり座ったりしてみに来ているのを見て嫌な気分がする人は、広島球場の応援禁止例が出た時の姿を想像してみて、実際にどうやって経営するのか考えて見て欲しい。メガホンも売れず、外野席は暇な人がしょんぼりいるだけで、静かな球場の中で、内野席にちょっとだけ見やすいからと増えた野球ファンがある。その周りにはよせば良いのに、外野を離れ内野にヤジを言いにきた広島ファンと、ちょうど静かだった川崎球場のように何をしに来たか分からないカップルが陣取る。回の合間にはみなに歌ってもらおうと応援ソングが流れるが誰も音頭を取らないから当然誰も歌わないだろう。日本なら当然だ。自然、野次を飛ばすフーリガンと化してしまった熱狂的純粋カープファン以外は球場に来なくなる。彼らも当然悪くない。資本主義だから。

 

 

 

 高校野球を見るといい。応援がしっかりしているチームほど、アルプスは盛り上がっている。野球だけ見るより、応援も見た方が、僕は楽しく見れる。盛り上がってない応援団を見るとしっかりしろよ、と言いたくなる。やっぱり野球ファンとして甲子園は盛り上がっていた方が良い。盛り上がらない甲子園だったら、テレビ中継する価値なんか無い。野球ほど応援の楽しいスポーツはそんなにない。野球にとって鳴り物応援ってのは、サッカーにとってのサポーターの大合唱であり、バレーにとって「日本チャチャチャ」であり、無くてはならない物ではないかと思う。大リーグにせよ、優勝争いのときの乱痴気騒ぎといったらない。試合中でもなんでも大声で騒いでワイワイやる、これが正しいのだ。おそらく大リーグでの鳴り物応援なしというものは、別にまとまって応援する気がないだけで、選手の集中を乱さないためだとか、そのあたりに理由があるわけではないだろう(※2)。うるさいときはうるさい。

 

 

 僕は、中日ファンである以上に野球ファンで、外野席より内野席で見る方が好きな人間だ。バックネット裏で、誰も見ていない試合を分析し、ぶつぶつ言っているだけで満足できる。が、外野席で思いきり応援し、負けて文句言いながら帰る時の楽しさを知ってもいる。勝ったときなんか「やりとげた」気分になる。そういう応援の楽しみを奪う権利なんて無いと思う。一流選手が打つ音、投げる音、ミットで捕る音など、確かに聞いてみたいが、どだいドーム球場などの大きな球場ではそんなものあんまり聞こえないだろう。本当に野球の事を考えているのなら、鳴り物応援をやめろ、何て言って欲しくない。それこそ野球が楽しめなくなる一因になる。こっちの気分が悪くなる。野球がすたれて欲しくない。

 

 だから僕は新しい応援を取り入れるロッテ応援団や、読売応援団、負けてもがんばる阪神、近鉄応援団、その他燃えよドラゴンズを演奏してくれるドラ応援団、その他各球団応援団と、高校野球ブラスバンド部、大学応援団などに心から敬意を表し、この言葉を贈りたい。

ガンバレ!応援団!

 

 

 

 

※1 ちなみに金に物を言わせる読売球団は嫌いだけど、紳士的で王者たろうとプレーを頑張る読売ジャイアンツ(巨人)は嫌いじゃないです。巨人の選手は大変だよなあ、注目され続けで。

 あと、こうやって書くと大リーグが嫌いなように見えるかもしれないけど、どうも緊張感に欠ける「大リーグ中継」が嫌いなだけで、別に大リーグが嫌いなわけではありません。大リーグは一度見に行きたいんですよ、本当は。グラブを持って。なぁに、野球がゆっくり見れなくても良いんです。楽しむことさえ出来れば。おそらくはそれが大リーグの雰囲気でしょう。

 

2 論点として、試合に集中できるとか出来ないとか、その辺の理由の方がもうちょっとクローズアップされても良いような気がするんだけど、全く声が出ないのが不思議な日本。この辺の論点からすると、確かに打者の集中は乱されるかもしれないけども、すごい大声援はそれよりも相手投手に与えるプレッシャーが大きいので問題ない気がする。とはいえ、選手がこの応援のことを嫌だというのなら、応援方法を変える必要というものが出てくるだろう。僕が鳴り物応援に対して一番心配することはこっちの方である。ただ、集中できないからといって鳴り物応援を止めた瞬間、野次が聞こえてもっと集中できなくなるはずだが。

 

 

 

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