たけふしん

日時     2000年1月28日

到達場所   福井県武生市武生駅

メンツ    僕 岸本さん

到達手段   福鉄電車

 

 「ド田舎福井を去る前に一度は福井鉄道に乗ってみよう!」という岸本さんの企画。なるほど、武生市に出かけ、そのまま駅近くのラーメン屋でいっぱいラーメンをススる、というのもなかなか乙なもの。確か話は12月中頃に出ていたのだが、さほどに忙しくもないのに1月暮れに実行することになった。あいかわらず、やる気がない。

「いやぁ、結構楽しみにしとってんや。」

とは岸本氏。福井鉄道ってのはどんなもんやろうというのももちろん、武生市駅前がどんな街なのか、気になる。

 

 

 午後1時、腹ごしらえをすませ、車は岸本家駐車場。続いてそこから福井口駅へ歩く。

「駅すぐそこやで。」

と岸本さん。僕はそのあたり減量中ということもあり、福井駅まで歩いていっても良いと思っていたが、人にトレーニングを強要するのは体育教師の仕事なので、福井口駅へ。何と岸本さん、僕のトレーニングにつきあっていただき、福井口まで駆け足で行ってくださった。

 福井口。

「えーと、時間は…。」

現時刻、1時40分、発車時刻1時53分。

歩いた方が早いスね。」

としめたとばかりに僕。

「そうやな…。」

と少し嫌そうに岸本さん。シャツにトレーナー、その上にコートを羽織っている岸本さんは若干辛そうだが、そのまま走って福井駅まで行くことにした。が、岸本さん、厚着ゆえにダウン。

「あー、ちくしょう。いつも雨ばっかの癖に晴れやがって!」

と大変ご立腹。徒歩で向かう僕ら。そこらの八百屋を見つけて

営業せん方が儲かるんちゃうか?」

と爆弾発言をするなど、相変わらずアグレッシブなトークだ。しばし歩いて、JR福井駅前。そして、福井鉄道「福井駅前駅」に着く。

「ほれ、山中君、とまっとんで。しかも二両!」

見りゃわかる。さすが都会っこ岸本さん、田舎のものがよほどもの珍しいらしい。

 一部路面電車である福井鉄道はJR福井駅から徒歩三分の所にある。路面電車ゆえ、駅が無い。ワンマンカーゆえ、車掌さんもまわらない。となるとキップではなく、「整理券とお金で清算するのか?」と思ったが、整理券を出す所も無い。

「うわあ、全然わからへん。」

 これほど始末に困る電車も珍しい。JR東海の太多線に乗る時もかなり困ったが、これはそれ以上だ。何といっても現金を支払う所と両替機しかない。整理券を出すバスの方がまだ気がきいている。

「きいてみましょうか?岸本さん。」

「ええわ、何とかなるやろ」

 さすが岸本さん、動じない。料金は390円だった。始発から終着まで乗るのだから、どちらにしろ最高の料金を払えば事は足りるし、さほどの出費でもないので、僕も落ち着く事にする。それにしても390円は安い。京福電車が福井−東古市(11キロ区間)で530円というとんでもない値段を、ほぼ自転車と同じ速度で巡行するのに対し、20キロある福井―武生間を390円で電車並みのスピードで巡回するのは素晴らしい。あまりにも素晴らしいので郵便局の兄ちゃんもスポーツ新聞読んで足を組み、四人分の席を一人占めして利用していた。まあ、裏を返せば京福電鉄が破格に高いのだが。ちなみにJR武生福井間は320円である。

「そいじゃあ山中君、ちょっと行ってくるわ。」

さすが岸本さん、落ち着きが無い。どうやら自動販売機にジュースを買いに行ったらしいのだが、何か知らんうちに帰ってきて、電車に戻ると、電車の中から

「何やーあんなとこに自販(自動販売機)あるやんか!くそー、もっと見やすいとこに置けっちゅうねん。」

と憤慨している。どうも、間が悪い。

 そのうち電車がガタガタ揺れ出した。その揺れ方が岸本さんの恐怖心をあおったらしく、次のセリフが傑作だ。

「なんや、俺らこのままアンドロメダ連れてかれるんちゃうやろな。」

 銀河鉄道じゃないんだから。お金の払い方も分からないまま、電車が動き出す。いつの間にやら郵便局の兄ちゃんが電車を運転している、なんだ、彼は福井鉄道の運転手か。さすがに390円分のサービスしか行わないらしい、やる気ナシだ。電車が進み出すと、意外とパワフルな加速で福井の街中を進む。しかしほとんど距離も無いような(300mぐらい)市役所前で止まる。このあたり、電車の意味は有るのかどうか。

「ここで降りて走って逃げていってもわからんで。」

と岸本さん。確かにそうだろうけど、そのメリットはあんまり無い。走って逃げる体力が有れば、電車に乗らない方が早く着く。と、突然、その会話を聞いたか、運転手の兄ちゃんが立ち上がった!

「おぇ?」

とスットンキョウな声を出して驚く僕。すると電車は突然反対方向に走り出した。この短い距離でスイッチターンをしたのである。なんて意味の無い事をするのだろう。

「岸本さん、ぼくカルチャーショックですよ。」

「そうやろ?俺もビックリした。このままアンドロメダ連れてかれるで絶対。」

二人そろって、電車が動き出すと、

「メーテルー。」

と呟く。まだまだ僕らも若い。福井鉄道は対面クロスシートである。進行方向と反対向きに座っていた僕は、景色を見ていたら、電車に酔いそうになったが、スイッチターンのおかげで、対面に座っていた岸本さんの気持ちが悪くなったようで、せっかくの景色を見ないようになった。岸本さん、おかげで少しブルーなようだ。僕は両替機が変に良い味を出していたので、岸本さんの分も両替してあげた。

 電車は路面電車にもかかわらずパワフルな加速を見せ、順調に進む。次第に岸本さんが最近顔を出すという商工会議所が見えてきた。

「あれやで、あれ。」

と岸本さんが指差す先には、何か立派で角張った感じのビルが建っていた。

「何か創価学会の文化会館みたいな立派なビルですねえ。」

と僕が感想を漏らすと、岸本さん吹き出した。

「そこ!思っていても言わない。」

いや、そう見えるものは仕方がないところ。あまり気にする方が良くないだろう(場所にもよるが)。

「ほら、ちょうどすぐそこに公明党が…」

「うわ、ホンマや。」

「その隣はお寺さんですよ…」

「……」

岸本さん、ついに絶句。多分このへんは偶然の一致だろうけども。

 いきなり、電車はパワフルにカーブを曲がり、軌道内に入り出した。どうやら、ずっと路面電車なわけではなく、途中からスピードアップするようだ。どうりで20キロを40分で結ぶわけである。路面電車なら、優に一時間半かかる所だ。

「いやあ、岸本さん、僕カルチャーショックですよ。」

しつこい。

「どうも俺らアンドロメダにはいかんでええで。」

と岸本さん、こちらもしつこい。

「いやあ、分からんですよ、俺らそのうちチハチョルキムチ…」

「アカンがな、何で北朝鮮にいかなあかんのや。」

このあたりも僕らの定番。ネタが一本調子な僕ら。一本調子といえば、福井鉄道もそうだが、どうやらこの電車軌道内に入って路面電車から脱すると駅が有人になるらしい。となれば、そこで精算が出来るのだ。なるほど、それなら納得がいく。軌道内に入った電車は水を得た魚のように快調に進む。ベル前駅着。ちなみにベルとは郊外型大型ショッピングセンターの事だ。

「山中君みてみ、ホンマベル前やで。」

と岸本さん。見りゃ分かる。そりゃあベル前だからベル前に決まっている。ベル前がジャスコ前だったらそれはもっとおかしい。

「うーん、そのまんまやな。」

岸本さんが妙な所で感心するうち、電車は進む。

 ハーモニーホール駅(これもそのまんまで福井ハーモニーホールのすぐそこにある)、浅水駅、三十八社駅、水落駅と、まあ変わった駅名がある。面白いのは浅水(あそうづ)駅で、駅名は浅水であそうづなのに、その周りは麻生津(あそうづ)という地名らしい事だ。一体何があったのかを考えるとそれだけでも面白い。が、岸本さん、逆に進む景色を見るのが何とも辛いようで下を向いたまま、

「ああ、良い天気やな、ホンマ」

というセリフを繰り返すと、窓を開けたまま、窓枠にお金をおくと、すごく眠そうにしている。僕など、窓枠のお金が落ちないかどうかそれだけで心配になって、眠くはならない。

「あーねむぅなってきたわ。」

というセリフを繰り返した岸本さん、今にも眠らんという状態だ。そばを薄汚れた川が流れていたりするが、

「山中君、魚おりそう、経験から。」

という、いかにも僕が魚取りマニアのような質問をし、わからないと答えると、そのまま魚取りに関する熱い情熱を語ってくれた。

何度か地引き網買おうか本気で考えた事があったわ。」

「俺が中学生の頃はタイリクバラタナゴ取りにはまっとったからね。」

とまあ、熱いエピソード。田舎育ちの僕は

「僕は、そうですねえ、川でやるっていったらザリガニの遠投ぐらいですか。」

と答えてみる。すでにわざわざ武生で話すべき話題ではない。

 そうこうするうちに、武生に着いた。武生の終着駅は、新武生駅ではなく、武生新駅であった。なんでこんなひねくれた駅名を付けたのだろうか。

 武生に着いたが、武生新駅周り、何も無い。どうしようもない。そのまま武生駅方面に歩いたが、ものすごく閑散としていて泣きたくなった。どうやら、唯一の買い物どころである平和堂が改装工事をしているため、華やかさというものがまるでないらしい。

「思ったよりも田舎やな、ラーメン屋あれへんやん。」

と岸本さん。

「何てこと言うんですか、ここはカンコー地なんですよ、お土産やさんあるし。」

「観光地ねェ」

カンコの字が閑古鳥の閑古ですけどね。」

とますますひどい僕。だいたいホントにラーメン屋の一つも無いのにはビックリだ。おまけに岸本さんがおなかを壊し、喫茶店による事もままならなくなると、僕らは武生見物もそこそこに、さっさと駅に入ってしまった。そこで、極真空手、フィリオが福井にやってくる、のポスターをみる。

「これ、ちょっと行きたいですけどねえ。フィリオの他にフェイトーザも来るし」

と僕が言うと、

「ああそう山中君そんじゃ行ってきてや気をつけてな。」

と岸本さんの冷たいセリフ。僕も一人で行ってみようかと思っていたのだが、岸本さんがポスター見て、

「こんなん、フィリオの蹴りが股間に当たってそのまま終わりやで。」

という岸本さんの解説を聞いたら、何となくそんなような気がしていくのを止めた。悔し紛れに特急列車に向かってビートたけしの「コマネチ」をやる僕。それを見ていたオバチャンが目を丸くしていたが。そのまま寒空の中電車を10分待つ僕ら。なにやら、情けなくなるぐらいに寒い。

 

JR北陸線に乗った僕らは、そのまま帰る。そして、あっという間に福井駅。そこから僕らは1キロ強の道のりを歩いて帰る。

「なかなか楽しめたで。」

という岸本さんと、

「カルチャーショックでした。」

という僕は、おそらくもう二度と福井鉄道に乗る事はない。今度は京福電鉄のたびもしてみたいのだが、これがうんざりするほど高いのが、何とも残念だ。

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