日時 4月17日〜18日
到達場所 岐阜県高山市 富山県富山市 富山県砺波市
メンツ 僕 ヒロ 田中君
到達手段 僕のカローラFX
旅は突然行われる。大学生の旅なんてほとんどがそんなもんだろう。いかにも大学生らしいエピソードを作りに僕は旅立つ。そのため4月17日五時、ヒロに電話。
「中日戦が終わる10時に県立大学へ。」
誘ったら来てくれた田中君、探してもいなかった岸本さん。結局三人で高山へ向かう。99年、まだ花見には行ってない。たったそれだけの理由で高山へ向かう。
「もう散っとるんちゃうか?」
とヒロ。だが高山は寒い所だ。多分大丈夫、そう思いながらとにかく目指す。高山は近い。国道158号線をまっすぐ行けばそれだけで到着する。が、僕が選んだ道は違った。
「ガソリン無いから。」
とそれだけの理由で滋賀県を経由する。365号を通って、滋賀県、続いて21号で岐阜県、そして41号を北上し、岐阜県北部の高山市を目指す。
午後十時、福井県立大学。僕はバットを素振りしている。筋トレしている僕にとって、待ち時間は絶好のトレーニング時間だった。田中君到着、そしてヒロ到着。めざすは一路高山へ。田中君の持ってきたCDを聞きながら、車は走り出す。8号線を南下し、武生市から365号線に入って、今庄町のローソンでお買い物。そして滋賀県へ。車の中の話題はまずかかっているCDの宇多田ヒカルである。
「んー、さすが天才と言われるだけあって、日本語と英語の区別がつかんなぁ?」
「こいつの唄、どこで入れかわるんかわからんのやって。」
「プリウスみたいな奴やな、はい、電気、はいガソリン。」
ヒロの表現はいつもわかりにくい。ハイブリットカー、プリウスのCMで、谷村慎二がガソリンと電気の継ぎ目を当てるCMをやっていたが、それの事らしい。それ以降、宇多田ヒカルはハイブリットと彼に呼ばれる事になる。
宇多田ヒカルは確かに歌がうまい。曲も上手い。けど好きではない。なんでかって、僕が洋楽を聞かないから、という一言に尽きる。FMを良く聞く僕にとって洋楽はただのバックミュージックでしかなく、何度も同じ曲を何回も聞きたくない、と言う所がある。そのへんは中学時代からそうやって洋楽に接しているから仕方がない。もう、変えられん。ともかく、宇多田ヒカルの曲もバックミュージックにしかならない。
「君と食べたイスにいるみたい?」
「君とカレーライス食べているみたいって聞こえるぞ。」
「ん、確かに。」
適当に日本語が混じっているから何だか分からない上に、日本語の切り方(符割り)がむちゃくちゃである。おそらく外国人が日本人の英語の曲を聞いていてもそうなると思うが、とても母国語に聞こえない。
「しかたないやろ、しばらく向こうにいたんだから。」
ま、確かにそうか。今庄365スキー場の近くでスポーツカーの一団を見たり、すっとろい車を抜いていったりしたが、そんな事はあまり話題にはならない。僕らは宇多田ヒカルの曲に夢中。もしかしてすでに術中にはまっているのか?おそるべし、天才、宇多田。
車は安全運転のまま、椿峠と木の芽峠を越える。すでに峠道の事など何の話題にもならないのが寂しい。雪が積もっているぐらいで、あとは何の事もない道が続くばかり。攻めるのも卒業したし。車はそのまま木之元を抜け、滋賀県に入る。
滋賀県でも365号。セブンイレブンに入って休憩する。僕はお気に入りのエアーインチョコレート、霧の小船をみんなにも買って振る舞う。ヒロはどのアーモンドチョコを買うか考え中。田中君は男らしくカラムーチョである。ヒロはアーモンドチョコを買う前にも、きのこの里とドラえもんのチョコレートを比較して文句を付けていたが、結局安い方のアーモンドチョコを買うことに決めた。僕の方は最近お気に入りの霧の浮船を食ってノアの箱船気分。まさに世紀末。車は365号を抜け、関ヶ原バイパスに出て、そのまま21号線に合流した。滋賀県で入れるはずだったガソリンだが、入れるのを忘れてきてしまった。ガソリンが無いからわざわざ遠回りしてきたのに、これでは無駄骨だ、とか言いながら21号をいく。まだ深夜と言っても浅く、21号線は混んでいた。
「多分県庁横を抜ければすいてるはずやから」
と僕。何と言っても岐阜県民だけに、道に関しては他の二人より良く知っている。車はのんびり進む。先がすいているように見えるのだが車が進まない。特命リサーチ200Xを見ている田中君が
「これが渋滞の波及効果なんやな。」
とカラムーチョの匂いをさせながら教えてくれた。なるほど。ブレーキランプのリレーで渋滞が起こるのか。とか妙に納得しつつ走っていたが、実際のところ、前がすいていると言う事実はなかったらしく、下り坂でテールランプの列がはるか彼方まで見えた。僕はひそかに口ずさむ。どこまでも続く長い、テールランプがキレイで。しかしそんな事は宇多田ヒカルには関係の無い事だ。宇多田の解読をしながら更に車は東へ。
車は21号線をひたすら東に進む。美濃加茂あたりを通りすぎてガソリン補給のことを考える。高山に行く山道にガソリンスタンドがあるかどうかなんて定かではないので、車は目的地と逆方向の名古屋高速道路方面、小牧市の方へと方向転換する。しかし、スタンドはしばしない。無いったら無い。
「このまま帰っちまうんじゃねえか?」
とヒロ。とにかく、みんなで探し、やっとこ見つけたスタンドでガソリン入れる。ガソリンは81円。安い。福井では78円だった当時で、この小牧市でも会員価格79円だった。平均的な相場はおそらく85円ぐらいだろう。田中くんとサービスステーションの中に入っていくと、得体の知れないコーヒーやら、妙な新聞やらがあって、何だかすごく怪しげだったし、店員さんも、いい人なのかいやそうなのかよく見当がつかない面白いお兄さんだった。さて、ガソリン満タン。車は41号を反転、一路高山に向かう。
「桜さいとるかなあ。」
とうれしげな僕。なんせ目的地は高山。目的は花見だ。七宗町あたりを通っていると、宇多田ヒカルの曲に入っているブレーキ音のような音と道が妙にマッチして不安になったりする。普通に道を走っているだけで「キキーッ」という音がしてみたりして、
「おい、タイヤが泣いとるぞ。」
とか。非常に紛らわしい。やはり人騒がせな奴だ、宇多田。
下呂温泉。そこを通ると、なんとガソリン屋が。ばかばかしくなる。値段は88円だった。手間賃考えるとさほど変わらなかっただろう。そこを通り抜けると、ついに桜が散るのをやめて咲いている!
「ほらみろーーーーーーー。」
鬼の首とったように喜ぶ僕。
「ホントやァ…。」
とヒロ。田中くんは花見という目的を今知ったらしく、ちょっとあきれてくれた。
どうしようもなくただの非常に速く、キレイな一本道をひたすら走るカローラFXは、ついに高山に着く。ガソリン屋があった。値段は81円。心の底から馬鹿らしくなるが、気にしたら負けなんだろう。
「どうやってもととっとるんや?」
と、ヒロ。どうせ高山から出る原油を産地直送だろうよ、と僕は相手にならない。そして車は飛騨地方に本拠を置くタイムリーってな名前のコンビニに着いた。
「桜見れないスか桜」
と店員さんに嬉々として聞く僕。店員さん、懇切丁寧に教えてくれた上に地図まで渡してくれた。何でも城山公園という公園の桜が今見どころらしい。僕のほかはみな眠そうだが、ハイテンションでもってGO.
城山公園。桜、咲いてました!すばらしい!
「おお、桜?」
いや、実際の所、暗くて何だかわからないが、桜っぽい。筋トレ中の僕はさっそく公園近く、山を一気に登ってみる。一気に上ったので、息が切れた。しかし、暗くて良く見えない。ヒロと田中君は、あきれ気味に、寒そうに、車の中に置いたまま。僕は仕方なく、失意のまま山を下りる。降りている最中、階段に足を蹴躓いて足をひねってこけそうになって泣きそうだが、ハイテンションで持ってGO。大丈夫、これはただのトレーニングだ。
山を下りると、ヒロと田中君が外に出ていた。
「おい、泉、見てみ。」
「おお、武田信玄。」
公園には跳ね馬に騎乗した勇猛果敢な鎧武者の像。まあ当たり前の話だが、これは武田信玄ではない。高山の町を作り、ほか城下町作りに無類の巧さを誇ったという金森長近像だった。山から下りると、ちょうど空が白み、町が見えるようになった。金森長近という名前もしっかり読める。
「なにゆえに金森長近?」
とヒロが聞くので、岐阜県民丸出しの知識を教えてあげた。田中君は元気にコーヒーを飲む。僕も負けてられないので、寒い中腕立てを四十回ほどして、城山公園をあとにした。
しかしながら、これだけの為にわざわざ高山に来たというのもばかばかしい。
「せっかくやから、富山行くか?」
と僕。田中君が了承してくれたので、ヒロも乗り気となり、車は狭い道を迷いながらも国道41号線に復帰、富山を目指す事となった。富山に行く道は、なかなかに遠い。なかなかに広く走り易くまっすぐな、快走の41号を宮川にそって飛騨古川を下るとやがて国道は二本に別れ、いきなり変な山道になる。41号は宮川を離れ、山の方に向かうが、この道が異常に曲がっている。
「なんじゃこりゃ。」
道の曲がり方がU字のカーブ、しかも連続で、最終的にはループ橋になっていた。さすがに峠を挟むだけある。すると今度はまた41号、果てしない断崖絶壁の道を行く事になる。この断崖絶壁が、あのイタイイタイ病で知られる神岡鉱山の跡地近くであり、おっそろしく眺めが良い。青がかった灰色の断崖が目の前に大きく広がる。
「ふあああ、すげえなあ。こりゃ。」
その崖を川を挟んで見ながら、車は適度に曲がった快走路を行く。富山方面への道は、意外と走りやすい。走っていて気持ちが良い。しばらく行くと車は県境を越え富山県に入り神通川のほとりを並走する事になる。すばらしいドライブコースだ。Save onなど、地元のものらしいコンビニを次々に通過、そこまで来ると、今度は156号を使って岐阜に戻る、という無意味この上ない事が目的になる。
「おとなしく8号使ってかえろうや…」
と懇願するようにヒロ。んにゃ、そういう訳にいくかい!
車は41号を離れ、なんだか得体の知れない道を西進し、変な一車線の道路に入った。どうも県道25号線らしいのだが、同じ所をなんべんも走ったりするなど、非常にわかりにくい。
「ほえあ!」
山の脇から、リスが出てくる。さすが富山、奥が深い。田中君は、寝ている。ヒロのナビゲーションを聞きながら、不安そうに車はひたすら西進、知らんうちに砺波市に入り、知らんうちに国道156号線に合流した。なんか、どの路を通ったかさっぱり分からないが、チューリップ公園の横あたりをさりげなく通ったみたいだ、なかなか、趣がある。156近くでは面白いもので、この日、なんか砺波ではイベントがあったらしく、気球が無数に飛んでいた。おびただしい数の気球だ。
「田中君、おきて、田中君。」
「うン…」
気球を指差す僕ら。
「ほら、気球、気球。」
「あ、うん…。」
「ごめん、そんだけ…。なんというか見せときたかったというか。」
悪いことしたなあ、と思いながら、ヒロと僕は行く。
ガソリンスタンドで給油を済ませる。ガソリンスタンドはモービルだが、このモービル、ほんの半月後にもう一度行っている(旅日記未収録)。ちなみに、5月はゴールデンウイークに行ったが、この直後に事故にあったので、すっかり忘れてしまった。まあ、そんな事はどうでも良いけど。
車はわけが分からないまま、国道156号、よせば良いのに、もう一度岐阜県を経由して福井に向かう。面白い事にこの日はたまたま桜の道マラソンがやっていたらしく、大変たくさんの人が走っていた上に、どういう訳かこの道の周りの人は総動員されて道路を掃除していた。おかげで車はゆっくりゆっくりと進む。この道のわきに石川県へ向かう変な道があったが、地図で見てあまりに怖かったのでそのまま通過した。おかげで、伝説はつくれなかった。156号は複雑な県境(岐阜県と富山県の県境が曖昧な地域)を通過し、南下を続ける。白川郷の当りではわらぶき屋根の家がちゃんと見えたが、僕を除いてみんな元気ではない為、そのままなんとなしに通過。車は長大なるダム、御母衣ダムのわきを通る。道がすごい。見えるダムも石が要塞のように高く高く積み上げられている。
「かーーーー。すげえなあ。」
ただのドライブと仮した一行は、御母衣ダムの脇をひたすらに感心しながら、通過。なんとなく荘川村を通過、痛烈な連続かーブを通過、何の感動も無く、蛭ヶ野高原へとやってきて、道の駅(気温2度)で一休みし、そのまま油阪を越えて帰ってきた。
馬鹿みたいに、ただ移動しただけの旅。所用時間13時間30分。走行距離合計570キロ。驚くべきはほとんど山道しか走っていない事だ。いったい何をしているのか分からない。僕らはその後、何もしないまま、なんとなく帰った。
学校到着。みんな疲れ果てているが、僕だけはなぜか元気。その後山中温泉へ向かい、今度は石川県を踏破して、続いてコンビニでお酒を買って帰ってきた。若いという事は、つまり幼いという事なのかな、とか、ちょっと思ったりした。