そのまま消える?七尾へようこそ!

日時      1997年9月4日夜中

到達場所   石川県七尾市七尾駅前(能登半島)

メンツ     僕  岸本さん

到達手段   岸本さんのカローラ

 

 天橋立にいった次の日に酒、その次の日風邪で寝込んで、後藤さんがやってきて、その次の日風邪で寝込んで。その次の日にはまたドライブ。あの頃は若かった。

午前0時、バイトが終わって駐車場が決まった岸本さんが僕の家に書類を持ってやってきた。その書類はその後しばらく僕の家で保管されることになるのだが、そんなことはどうでもいい、ってんで僕らはプロレスのゲームをする。二人で世界最強タッグのベルトを奪取し、

「ウィー」

と指を立てていたが、ブラジル人が恐いので一回外へ出ることに。さて、どこへ行きますか。

 

 

 岸本さんは天橋立に行った時に急激に上達したとはいえ、まだ初心者。運転上達の為、いろいろな道を経験しよう、ってんでまずは、国道364号線に乗る。国道364号線は我が家近くを通り、永平寺方面に向かって、416号線と交わる道だが、今回行ったのはその逆方向で、竜が鼻ダム、というダムの隣を抜け、丸岡温泉たけくらべ、という所の横を通り、山道にはいって、大内峠と呼ばれる峠を越え、石川県に入り、山中温泉(加賀温泉郷・石川県江沼郡山中町)に到達。そのまま8号線に接続する、という道路。この道路、北は8号線から山中温泉、南は永平寺から国道158号線に接続という、短い国道の上、冬季通行止め、利用者少ない、永平寺と山中温泉以外にたいした物はない、という辺ぴなところにあり、その上山中温泉にいく人達もこの道路を使わずに8号を使うというはっきり言ってどうでもいい国道なのですが、多分県境が合って、山中温泉と永平寺を結ぶという観光的にも将来性がある、という理由から国道になったのであろう。しかし、残念ながら観光バスが通れるスペースはない。そのうえ、今年に入ってからは台風の影響で通行止めになっている(1998年〜?)。しかも通行止めの工事を示すところには「当分の間」と書いてあり、既に国道としてのプライドを捨てている感もある。

 そんな道。当時僕は過去一度だけいったことがあり(その日から通行止めになるまでに数え切れないほど通っているが)、練習路にはぴったりと思っていた。そこで行くことになったわけである。

「よっしゃ、いこかぁ」

Aボタンは駄目だよ危ないじゃないか!(プロレスゲームのセリフ)」

全くかみ合わない会話を楽しみながら、初心者二人は364号に乗る。ラブホテルシャンティを右に見て、次の信号を右折。凄まじく回りくねった道を行く。が、当然天橋立を往復した岸本さんには

「まだ設定が甘い」

と言われる。途中、夜景が綺麗で有名らしいトンネル手前の風景で感嘆の声を出し、そのままトンネルを越えて丸岡町へ。あいかわらずチェッカーズの歌を歌いながら丸岡温泉たけくらべ。そして、山道に。

 全国各地津々浦々、難所と呼ばれる道路は数知れず。だからこの道などのレベルというのは相当低い、というか、既に難所ではない程度の道である(僕らの今の共通見解)。ただ、ドリフトできるほどの道幅もなく(ケツ振った瞬間ぶつかる)、見通しが悪く、曲がりくねり型は何Rあるかわからないような道というのは初心者にとって十分な難所である。山道。そして道幅なし。中央線当然なし。スピード落とせの看板も無し。落石注意の看板はあり。ただの山道。ひたすら山道。岸本さんはゆっくり進む。運転者は前を見ながら運転するが僕は横を見ていると、

「今、横をなんか通ってきましたよ。」

 どうやらキツネっぽい。さすが山道。曲がりきったと思ったらまだ向こうにカーブが続く。螺旋階段のようにくるくる回るかと思うと、当然そんな地形などある訳が無く、いきなり反転する。反転した方向に計測不能(どこからどこまでをカーブと呼ぶかが分からないから)Rのカーブ。

「こらきついわ。」

とさすがの岸本さんも言う。だってまだ初心者。今ならスイスイだろうけど。車が停止する。

「あらー」

道にはまくら程度の大きさの岩石が転がっている。よけれないことはないが邪魔である。大体普通は道の真ん中に石が転がっているとは思わない。

ほんまに落石注意やな。」

岸本さんは言う。初心者の練習にはよいかもしれないが、若干の危険を伴う。ついでに夜中に来る道ではない、どちらにしても。そんなこんな出道をすり抜けて、今では(通行止めで行けなくなる前までは)恒例となったJA山中町のところで一休み。コーヒーを飲んで、今度は加賀に向かった。例によって目的地が決まっていない。

 

 とりあえず国道8号(北陸縦断国道)に出た。今も昔も僕らのドライブには「とりあえず」が多い。地図が無かったりとか、無計画であったりするからだが、作者(僕)がとりあえず、という言葉が好きだからでもある。そんなこんなで8号線から、なんの疑いもなく北へ進行したカローラは、今度は小松バイパス「加賀産業道路」に出る。ここもこの時が初めて通るのだが、今となっては何回とおったか分からない。

「目的地は金沢!」

「よぉし!とばせー!」

「とばしたら駄目だよ、危ないじゃないか!」

とまた、内輪しかわからない会話が進む。小松バイパスは信号も少なく、高速道路とまではいかないが、相当の時間短縮につながる快走路で、夜中となれば走る車も少なく、見掛ける車は自分たちも含めてほぼ速度違反である。快走中は気分よく、会話も快調である。

 

 

 

チェッカーズの音楽にのせ、車は金沢に到着。しかし僕らに帰る気配はない。

「金沢まで来ちゃったよ。」

人事のように岸本さん。

「来ましたねー!」

と嬉々とする僕。そのまま僕らは8号線と金沢市街へ別れる分岐点から八号線をチョイスし、途中で僕の、

「そう言えばヒロが能登がどうのこうの言ってましたよ。」

という一言から、左車線に入って能登有料道路の方面に出る。ホントに勢いだけである。

「ここ、どこや?」

と道に迷って数分後、僕らは能登有料道路の上にいた。車が、無い。対向車も、後続車も、何にも無い。

「このまま北朝鮮に行ってしまうんちゃうやろな。」

と冗談めかして岸本さん。

「まさか?」

とちょっと不安な僕。

 能登半島道路は入り口で料金を支払う。結構安い道路である。これでもか、というほど何も無い道路をひた走ると駐車場があったのでそこで一休みした。どうにもあやしい自動販売機がある。中のメーカーはよく知らないものから有名なものまで揃っている。そして、ヒタヒタと冷たい椅子。そこでホットのコーヒーを買った僕らは外に出る。音が何も無い。

「寒い。」

と岸本さん。9月4日という残暑真っ只中でも、寒いと感じたそのわけは、日本海であった。見れば何も無く、光も無く、目が慣れてきてやっとぼんやり見えた海岸線。そう言えば海を見たのは相当に久しぶりだ。海の無い岐阜県で生まれ育った僕にとって、日本海は、たとえはっきり見えなくても感慨深いものを思わせた。さて、しばらく。さんざんこの駐車場のケチをつけた後、トイレに行ったりしてみたが、どうやら道の駅らしい。有料道路でも道の駅があるのだなあ、と感嘆してみたりとか。本当に不毛な旅はまだ続く。

そのうちまた料金所がある。どうやら安いと思わせておいて何度も金を取っていくぼったくりシステムらしい。

「なんでしょね、これは。」

ひたすら続く能登道、そしてひたすら車の無い能登道。なんとも薄気味悪い上に、どうやらぼったクリシステムはいつまでも続くと見え、僕らは途中で降りた。そこはどこかわかりもしない道。とりあえず七尾に行こう、ということで名も知らぬ道を走る僕ら。どこかの県道だろうか。

しばらく下ると、交差点があり、どうやらまっすぐで七尾らしいので、まっすぐ行く。

道は結構急な下り坂に入った。

「これはなかなか良いカーブだね、70点。」

岸本さんはまたカーブに採点。70点というのはどういうカーブなのかさっぱりわからないが、初心者が上手くなっていく過程というのはきっとそういうものなのだろう。しばらくすると緩やかな下り坂に。また交差点が会ったので看板を見るが、どうやらまっすぐで七尾らしい。

「七尾やで、七尾。」

「この前天橋立だったのに。」

「そんなこと気にしちゃいやん、山中くん。」

いかにも関西人なトークをかます岸本さん。道は交差点を超えると緩やかな下り坂。

「岸本さん、さっきからずっと下ってません?」

「あぁ、山中くん、俺も言おうとおもっとったんや。」

能登有料道路を降りてから一度も上らず、ひたすら下っている。山で降りたからなのか、目の錯覚なのかどうか知らないが、都合10分以上下り坂を走っている。

「このままトンネル入って北朝鮮ってことはないでしょうね。」

と冗談めかさず目が真剣な僕。

「多分、無いと思う。」

かなり不安そうな岸本さん。

 

 

 ほどなく車は七尾に出て、何とかよくわからない旅は終わる。せっかく七尾まで来ておいて、たいしたことをしなかったのは失敗だったかもしれないが、そういう旅もアリである。

 帰りは無料だが全然快走路である国道159号。あれだけ下ったのにあまり上ることなく帰った。こういう旅、不思議と帰りはあまり覚えていないのは、気持ちの高揚と関係あるのだろうか?

 

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