僕のふるさと、岐阜県関市の市役所周辺は田んぼばかりである。つい5年前に無駄に立派な関市役所が出来た。その後、周辺には中濃市場、JA関などが出来上がっていく。そしてつい最近文化施設である若草プラザ、そして現在新しい病院を建設中で、いずれ市の中心機能はこの地に終結するらしい。文化施設である若草プラザは関市立図書館とプラネタリウム、多目的ホールと、温水プール、そして体育館からなる。今まで関市文化会館に関市立図書館があったり、成人式などの公式行事が行われたりしたが、この若草プラザの完成により、関市文化会館は、売れないバンドのコンサート会場などの、娯楽文化施設へと変わっていくだろう。
が、それは意味のある事なのか。というのも、岐阜県関市民というのはおそろしいほど冷めているのだ。岐阜県民は、ラジオなどにも良く投稿し、コンサート、野球場などでもやたら盛り上がる人たちなのだが、なぜか関市民はまったく盛り上がらない連中である。
どれぐらい盛り上がらないかを説明するのにちょうど良い話がある。ある年、関市の本町で行われる関市輸入品バザールには売れないモノマネ芸人が集まっていた。道路上が会場となり、客は思いのほかたくさん集まった。たくさん集まったところで、自称「キケンなデーモン小暮」閣下が登場。当然のごとくニセモノである。偽閣下は、「フハハハハハハハ」と笑う。関市民は当然「何だコイツ。」という目で見ている。偽デーモンは子供を指差し、
「我が輩を誰か知っているかあ!!!!!」
と叫ぶ。こうすれば子供が泣くか、「知らない。」か「デーモン」の一言で軽くオチが着き、つかみはOK!!となるところなのだが、その関市の子供は
「バナナ食べたい。」
と騒ぎ出しデーモンをまったく無視した。その後のデーモンは
「こんな田舎で、こんなに客が集まったのは初めてだが、こんなにつめたい客も初めてだ」
と、赤裸々に真情を吐露するに至ってしまい、その後のステージもまったくさえず。おこる笑いは失笑のみ。
「ヘイ」
とマイクを突き出してもノーリアクションで、怒り出しヘイといったらヘイといえぇ!と無理矢理言わせた後に
「林家!」
とやって当然ぺーといわせる事は出来ず、火を噴く場面でもうろたえて火を噴くのを失敗し、間違って逆に火種を消してしまう始末。その後に出てきた「ちょっと太った近藤昌彦」などのものまねタレントすべては当然のように撃沈した。
更に話はそれるが、バナナ食べたい、の子供が食べたかったバナナは別会場で行われたこども叩き売りのバナナ。バナナの叩き売りは1000円から始まって、ついにおおきな房が300円ぐらいとなって売れていくものだが、関市は違う。誰も買いやしねえ。バナナの叩き売りは100円でも売れず、ついには売っている子供の口上のネタがなくなっていた。こんな事は始めてだと、隣にいる大道芸指南のオッサンにさんざん毒つかれ、50円になったところでやっと売れ、しかもその大量に用意してあったバナナは全て売り切れた。あの叩き売りではいくらの赤字を出したのだろう。
そんな関市。たとえイベントが行われたとしてもさほどメリットがあるようには思えないのだが。
とはいえ、作られた若草プラザで何もやらない訳には行かないから、体育館の落成はVリーグ女子の招待試合、多目的ホールの落成はNHKのどじまんと、田舎にしてはなかなかのイベントをそろえた。Vリーグ女子は日立ベルフィーユ、デンソーエアリービーズとまあこれも良いチームが来た。デンソーは愛知県のチームで地元チームである。僕は堀内君に呼ばれ、見に行ってきた。何といっても無料である
若草プラザにはほとんど人が集まらない事が予想されたが、これが予想に反し、大盛況であった。どうやら人が集まる事だけは間違いない市民性らしい。中学生、小学生などのバレークラブからやってきた人たちが多かったようだが集まるだけマシである。
パンフレットを見る。デンソーエアリービーズに知っている選手は小野一人しかいなかった。しかも来ない。所詮その程度の知識しかない。何人か不参加の選手がいたが、まあ、用事があるんだろう。日立ベルフィーユのメンバーを見る。おお、すごい。知っている選手がたくさん。多治見、江藤、福田、宝来、島崎って全日本クラスじゃないか!…あれ、多治見と江藤、宝来は不参加か…。練習が始まる。福田もいない…。…うーむ、デンソー小野も来ないし。地元選手であるはずの櫻井選手も来ないという事はおかしい。全日本で合宿でもしてるのかぁ?島崎選手しか知っている選手がいないとなると、これはもう高校バレーを見ているのと同じように、これから出てくる選手探しになってしまう。それじゃあ、試合見ていてもつまんないだろうから、応援をして一人勝手に盛り上がる事に決めた。地元チームであるデンソーだが、地元といっても愛知県の選手で僕には縁もゆかりもない。だからといって日立を応援するのもなんだろう。で、結局日立の島崎選手を追いかけてみる事に決めた。ヤジウマ根性というか、ミーハーというか、何というか。
セレモニーが始まり両チームの監督さんへ関市の刀が手渡された。バレーボールのチームに刀なんてわたして、それをどうするというのだろう。などと堀内君と話す。切れ味鋭いスパイク?そんなこといったって、さあ。
さあ、公式練習が始まった。プロの練習というのは見ていて面白い。野球もそうだが、寸分も狂いもない練習をするので、リズムがある。練習の時にこの人はすごそうだ、という選手を探してみる。なんといってもドシロウトだから、リベロの仕組みなんていまだに分からないぐらいなのだが、なんとなくでなら凄い選手というのはわかる。エアリービーズの坂本選手と、ベルフィーユの田中選手はなんか凄そうな気がした。
試合が始まった。まずは選手紹介。おそれていた事がおこった。やはり、応援は拍手だけで、誰も声が出ないのだ。岐阜県関市、おそるべし。こうなったら僕がなんか言おうかと思ったけど、良く知らないから辞めた。大体センターの選手というのがイマイチまだわからない僕にそんな事を言う資格はない。となるとやはり拍手だけであった。
「エアリービーズ温水選手のツーアタックが決まりました!」
とご丁寧にナレーション付。ナレーションなんか聞かなくても分かるわい。ツーアタックくらい。
「よお拾うなあ。」
と堀内君。ド素人の僕らはそれぐらいしか感想がない。島崎選手なんかが大声で叫んだりするのがなんとも言えない雰囲気を作り出す。見ていると飽きないし、面白いのだが、
「そーれ」
とか、スパイクが決まった後に音楽が流れたりしないのがまずく、そこへ来てド田舎拍手であり、後ろでは子供が
「あのオレンジ卑怯だぁ」
とか言っている。オーバーネットで反則を取られたことを卑怯とかなんとか言うので、どうもがまんならないで説明しようと思ったが、基本的にどちらかを応援する方が正しいのでやめた。そういう事もあってか、期待したほど面白くもないのである。
一セット目は接戦の末ベルフィーユが取った。二セット目はエアリービーズ。接戦である。ベルフィーユは田中選手の動きが目立つ。エアリービーズの方は特に誰がいいということはないのだが、しっかり拾っている。これでエースがいれば強いんだろうなあ、思いながら見る。外人制度撤廃が惜しい。
後ろの子供は子供の癖に意地の悪い応援をする。
「オレンジ負けろー」
なんかすごく気分が悪かった。席を替えようにも場所がない。いらいらしながら試合を見る。注意したいのだが、すると怒声になりそうな気がする。それはあまりに大人げないし、スポーツ嫌いになってしまうかもしれない。
サイドアウトがないので流れがガラッと変わることというのはないのだが、それでもバレーというのは流れが行き来するのが面白い。が、後ろの子供は青(エアリービーズ)が点を取ると、
「オレンジざまあみろ」
オレンジ(ベルフィーユ)が点を取ると、
「えー、負けろオレンジぃ」
健全さというものが感じられない。昔確かに僕が中日巨人を見ていたときはそんな風だったような気はするんだけどさあ…。
3セット目はベルフィーユ。ここで向かい側の高校生が
「デンソー頑張って」
と応援していたのがすがすがしかった。三セット目あたりから子供が疲れたらしく静かになってくる。
「次はデンソーやで。」
と堀内君。華麗な移動攻撃、時間差、速功など、こういうところでしか見られないプロのゲームが見れている。ベルフィーユ優勢の四セットだが、エアリービーズが反撃すると、勢いはとまらず、拾って拾ってベルフィーユがついに4セットを取る。
5セットは白熱。エアリービーズが先行するも、ベルフィーユが追いついて8点目に先にたどり着く。コートが変わってデンソーエアリービーズセットポイント。が、追いついてベルフィーユが今度はセットポイントを取り返す。女子選手の高い声と、おとなしいながらもやっと血が昇ってきた関市民の声でやっとボルテージが上がった試合は、その後エアリービーズが2点とり17対15で勝った。うん、面白かった。最後に子供が起きてきて、
「やったー、青勝った。」
といったのも良かった。やっぱり相手をけなすことではなく、応援することにスポーツ観戦は面白さがある。適当に若草プラザをぶらぶらしていたら、それはもう立派な建物だった。建物に負けない立派な市民が欲しい。
でもバレーはサイドアウトがあった方が面白いな、と堀内君と話した。帰って松阪のピッチングを見、中日の勝ちに喜ぶ。どうも僕は野球の方が好きらしい。あと、島崎選手にほれました、少し。