福井商VS浜松商業
  1 2 3 4 5 6 7 8 9 スコア
浜松商 0 0 0 0 0 0 2 0 0 2
福井商 1 0 0 0 0 0 0 0 0 1

〜福井商が目的達成して夏を追える

 

 朝9時から夜10時まで働く毎日。たまに休みをもらっても、連休じゃないので遠出は出来ない、そんな中、無理やりに開けたスケジュールはたまたま福井商との試合に重なった。大学時代にあれだけ見せてもらった福井県の野球レベルの高さ。今回もそれが見れると思うと心躍る。

 そんなわけで朝5時起床、車を飛ばして米原駅から新快速を乗り継いで、阪神電車乗り換えついて一回戦。今回から実名登場の堀内君と試合を見にくる。朝早くこれたおかげで、なんと銀サンの下、記者席左後方に陣取った我ら。さすがに、暑くない。浜風が気持ち良い。そんな中、福井商一点リードで試合を見始める、四回のオモテ。

 

 福井商は超戦国福井県大会を、屈指の勝負強さと圧倒的な投手力、そして伝統の守備力で勝ちあがった。なんせ福井大会、そのメンツがすさまじい。優勝候補の筆頭は不祥事でセンバツを辞退した敦賀気比。今世紀最後の怪物、内海と、スラッガー李ほか、木下、東などのタレントを擁すその陣容は大学チームに匹敵する大型度だ。対抗に上げられたのは王者福井商。右の山岸、左の吉田とこれまた全国屈指の投手力。もともと点を取って勝つチームではなく、シブイ試合展開で全国区の強さを誇る。その他に、弾丸ライナー打線鯖江、エースを含む昨年夏のレギュラーメンバー6人擁する敦賀高校。そして天才指揮官渡辺監督率いる新生、福井高校。 どこが勝っても甲子園の有力校となりえるチームがそろったこの大会を、実に「らしい」戦い方で勝ち上がったのは、基本とデータの堅実野球、福井商業だった。

 燃えるキャプテン尾崎、右本格派、低めにズバッとストレート山岸、福井のドクターK、高めのストレートで三振の山を築く吉田のほかにも、今後の福井商を支えるであろう1年生捕手岡本、そしてバックネット裏の名高き「福井商007」と、一点勝負には無類の強さを誇るチームの陣容。敦賀気比高校完全マークのもと、大接戦を制して甲子園。

 一方、浜松商。全く騒がれなかった、沈黙の伝統高。一度は完敗し、終わった夏が突然の雨でもう一度戻ってきた、という運のよさで、知らない間に勝ち上がってきた。はっきりレベルの低かった静岡大会を、レベルの低い勝ち上がりででてきた浜松商。相手が相手ならいきなりエースを温存されてしまいそうなチーム。

 

 しかしながら、浜松商が強い。吉田のボールに完全に降り遅れている浜松商に、重苦しい雰囲気が全くないのだ。どういう精神力をしているのか、福井商の完全なペースで、福井商の説く意図する重苦しい雰囲気の試合展開で、打ち取られながらもはつらつと試合をしているのだ。

 浜松商、一度死んだ経験からか、全く甲子園を意識しないような戦い方を、明るすぎるくらい明るい、悲壮感のない楽しそうなアルプスの声援が支える。福井商は相変わらずアルプスが死んでいる。なんだって福井のアルプスはあれほどに暗いのか。福井商、データのない緒戦は苦しむだろうなあ、と思っていたが、それ以上の魔物に取り付かれている。主将、尾崎が怪我をしている。敦賀気比というとてつもないチームを、気合一つで飲んでしまった尾崎が、腰痛で無理やり試合に出てくるような状況だと聞く。そこへ加えてこの応援の差。浜松商の屈託のなさ。

 

「おれさあ、浜松商応援するわ。福商、つまらん。」

と堀内君に言う僕。 応援団に愛されるチームじゃないといけない。いくら愛すべき福井の、いくらレベルの高いチームでも、一点ぐらいのリードで安心したわけではあるまいが、どうも試合に緊張感がない。目標達成してしまったかのような、福井商の燃えなさ。これはすでに福井商ではない。打倒、敦賀気比で完全に燃え尽きてしまったのだろうか。

 

 一方の浜松商、吉田の快投に三振の山を築きながらも、失うものがない強さか、はつらつと野球をしている。

「面白い試合やな。浜松商、やっぱ運がいいチームや。」

さすがに見所が違う堀内君。浜松商の御殿場西戦を例にあげて、今度の戦いもそうだ、と言っている。一点差ゲームは明らかに福井商のペースだ。が、回を追うごとになぜか明るくなっていく浜松商に押されている。これは見ものだ、という。

 なるほど。福井商は、昨年春にもセンバツに出ながら、日大三相手に実力を全く出せないで完敗した。この試合は日大三の試合のうまさが際立ったが、福井商業は得意の重苦しい試合をしながらも、結局流れだけはつかめないで終わっていた。相手の失敗に漬け込む野球が、出来なかった。今度もそうだ。なんせ、相手が焦らない。浜松商は、たいした音量もなく、変な音楽を流しているわけでもないのに、応援が妙に元気で明るい。おまけに選手が楽しんでいる。これでは失敗に付けこむようなことはできない。展開が似ている。浜松商が格上の相手に120%、福井商は格下の相手に60%の試合。これで試合になってしまっている。

 勝手に呪縛にかかった福井商の悲劇は7回オモテだった。なんとなく打ったようなセンター前ヒット、その後、よもやの三振振り逃げ。そして、簡単に犠打を許した。浜松商、ここで伝統校らしく送りバントをできる展開にしたのが勝因。見事なシナリオで、この後のタイムリーにつなげ、たった一度のチャンスをものにした。

 

 裏の攻撃福井商。二死満塁のチャンスを得る。

「代打山岸!」

と僕は叫ぶ。ここででてこなくてどうする、そう思ったが、北野監督の判断は山岸の投球練習を優先させた。途中出場の二番打者稲井田は、絶妙のタイミングでマウンドに上がった浜松商鈴木に全くタイミングが合わず、三振。完全に勝負あり。

 

 投球練習を済ませて万全の状態で出てきた山岸が、相変わらず低めに伸びるストレートを見せ、8回を簡単に料理しながらも、いつも見せる奇跡的なしぶとさを福井商は見せられなかった。しぶとさの基盤になるデータが、伝統校ながらほとんどノーマークのの浜松商相手に使えなかったこともあるだろう。が、あまりにも敦賀気比という相手が強すぎた。どうも、燃え尽きていて、淡々としている。

 

 ついに、ゲームセット。

「いい試合やったな」

と堀内君。確かに、浜松商業は会心の試合をした。そして、応援団もすばらしかった。が、福井商の強さを知る僕には、あまりにも消化不良なそういう試合だった。

 

戻る