玉野江南VS帯広三条

 

 

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スコア

玉野江南

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帯広三条

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  聖光学園のあのアフリカンシンフォニーを聞きながらお昼ご飯を食べに言った僕らは、途中帯広三条の応援団を見る。みんな、来ている服から肌の色まで白い。多分目の錯覚なのだが、男は颯爽と細くてそれでいてさわやか、女はどこかおっとりしていながらも細身の奥手な感じという印象を受けてしまった。もう間違いなく、頭が熱にやられている。それでいて僕らは彼らに純朴なイメージを持つのだから始末が悪い。勝手にイメージされたほうは良い迷惑だろう。

 「おいおい、北海道って良いところっぽいな?」

とわけのわからないことを言う僕に

「そういうことだ!」

と元気よく答えてくれた堀内君が、どうも同じ意見をもっていたらしいのがなんとも面白い。

 ダイエーフードコート。もとは享栄の甲子園優勝投手、近藤真一が、割れた顎を突き出し、濃い髭をなぞりながら日焼けしたごつい体でのびている。どうやら寺原待ちらしい。次の対戦相手の打者がどんな選手か知らずに寺原だけを見にきているというのが、なんともなめているなあ、と僕などは思ってしまうが、プロというのはどやっぱり見るところが違うらしい。第三試合前にもなんかラーメンを食っている。寺原だけが面白いわけじゃあねえぞ、と思いながら、僕らはまったく知らない二校の野球を見に外野スタンドに足を運んだ。

 

 最近躍進著しい岡山代表は、最近強豪の仲間入りをした玉野江南が出場。岡山理大附、岡山城東、倉敷商、関西と並んで気鋭の代表玉野江南はまだイメージというものを持たないが、最近の野球を見るにつけ、どうも岡山らしい守って攻めて勢いづいて、というタイプのチームらしい。岡山のチームは本当にこのタイプが多いが、なんか土地柄だろうか。レベルも上がり、良いリズムを持ち始めている。

 対して、色白純朴帯広三条。もちろん勝手なイメージだが、練習している選手も小柄な選手が多く、打つ気がしない。175cm以上の選手なんかいるんだろうか。しかも、ユニフォームの関係もあり、白く見える。一体どうやって甲子園に上がってきたのかが良くわからない。やっぱり守るんだろうか。北海道のチームで守備型のチームってのは、やっぱり気候の関係もあってなかなか難しいのだろうが、どうなんだろう。全国レベルでは守れない、なんてことにならなきゃいいが。

「ワンサイド?」

と僕は真正面から堀内君に言う。

「それは言っちゃああかん。さっきのおめー、聖光学園だって相手がわるかったんやに。」

とやはりワンサイド予想の堀内君。やっぱりそうなると、判官びいきがしたくなる。岡山ビイキの僕だが、イメージだけで帯広三条に寝返った。こういう試合は予想しているほうを押す堀内君、やはり、玉野江南びいき。だいたい、こういうときは応援チームが分かれる。

 

 帯広先発はその中でも格段にちびっこ。大丈夫か、と思っていたら、意外とテンポ良くボールを投げ込む。

「ほおー、どうやって甲子園来たのかと思ったらこうやって…。」

小柄なだけに瞬発力勝負らしく、おそらく走りこんだであろう安定した重心から、そこそこにのびのありそうなボールと、小器用な変化球が飛んでいく。フォームにもリズムが合って、小気味が良い。この手の投手はやりにくいだろう。なにせ、小さいのに、良いボールがくる。独特の角度があるのだ。変化球も、きっちり変化する。見た感じ、カーブとスクリュー(チェンジアップ?)、スライダーも使いそうだ。ヤクルトの石川、あとは調子のいいときの前田幸長がそうだが、小さい投手の重心が安定すると、手がつけられない。しかも石川、前田と同じ左腕だ。勝ち上がれば意外と注目されているんじゃないだろうか。

 帯広三条、どうやら序盤に飲まれてしまうことはなさそうだ。一回表、まともに打たれることなく小さな島田投手がマウンドを守る。

 一方の玉野江南はスリークォーター気味のオーバーハンド藤本投手。まあ、フォーム見るからにスライダー投手だ。こういう投手はインコースにくるボールは全てストレートないし、シュート気味のボールだから右打者はインコース引っ張るとファールになり、外角打つと引っ掛ける。要するに、左打者しか打てない。それに、右打者はインコースを右打ちに、アウトコースをセンター返し。これが攻略法だが、インコースを右に打てる技術はなかろうから、センター返しがカギだ。あるいは、スライダーはスイングをあきらめ、流し打ち。

「二試合連続や、これ。」

「うん。」

さて、高校生、これに気づけるか?

 結果、帯広三条は、なんと、なんと気づく。監督指示だろうか?

「ん?」

帯広三条打線、ほとんどのボールを脇をしめてセンターラインへはじき返す。しかし、それを上回るのは投手藤本のスライダー。なにせ、小柄な帯広三条。スライダーを流し打ちできるような体格の選手がいない。一回、二回ともにセンター前へ安打がでるも藤本、後続を絶つ。

「やるなあ・・。」

この試合も、レベルが高い。ゲームは決して軟投ではない技巧派の小兵・島田と典型スライダー投手藤本の投手戦の様相。

 

 しかし暑い。試合はテンポ良く進み、島田君もテンポ良く投げ込むが、どうやら、運が悪いらしい。まあ、北海道の選手には、暑いだろう。手元が狂ったか島田、センター前からデッドボールにフォアボール。相手の守備妨害も絡んで走者が入れ替わるも、帯広三条二死満塁のピンチ。それでも、

「多分、スクリューボールとカーブで逃げ切るで。」

と僕が確信気味に笑う。しかし…。打者は奇しくも投手藤本。島田君のカーブにタイミングを狂わされたボールがポンポンとショートゴロ。そこに突然のイレギュラー!!

 

「あららーらら…。」

運が悪いとしか言いようがない。まさかまさかのショート頭上を越える内野安打。帯広三条、ショートもご多分にもれず、小柄だった。

 

「でもまだわからんよ。藤本君、自滅するかも知れん。あれだけセンターから右に打たれると、ストライクはいらなくなるやろ。」

 とおもったが、勢いに乗ったのは、投手、そしてラッキーなヒットの藤本君だった。これは驚くべき事実なのか、それともただの偶然か、4回からの攻めは完全に相手の攻撃を見切ったか、スライダー中心の技巧的組み立て。右打ちに行く小柄な選手は面白いほどバットが空を切り、当たってもまともに飛ばずに一塁ゴロ、そしてセカンドゴロ。

 5回裏、左打者二人が作ったチャンスに三番吉田君は捕らえながらセンターハーフライナー。7回に作った満塁のチャンスも、またもやスライダーで併殺。一方の守りはスクイズをはずしながらもなんと飛びつかれ、そのあとタイムリーをうたれるなど、継投の失敗もあってしっちゃかめっちゃか。帯広三条はおそろしいことに戦略的にはほぼベストゲームを演じながら、運だけでワンサイドゲームになった。

 一方の玉野江南、5回のスクイズを決めたのが遊撃尾上、そして、ゲッツーを奪ったのも遊撃尾上。キーマンとなったのは玉野江南で一番のちびっこ選手だった。

 

「さっきの聖光学園もそうやけど、たまたま相手が悪いで、今日は。」

「…まあ、実力もあるけどなあ。確かに、運が悪かったなあ、帯広。」

中盤両チームともにチャンスを作りながらも、非常にテンポ良く進んだこの試合、最後は帯広二番手の、これまたちびっこ投手黒沢君から一発下川君がかましてゲームセット。ワンサイドながらもえらくレベルの高い試合だった。

 

「ん、まあまあやねえの。」

とは堀内君の評。北海道の夏はやっぱり短かったけど、帯広三条にはそれでも、熱くて気持ちよくて、最高の夏だったに違いない。

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