1

2

3

4

5

6

7

8

9

スコア

佐野日大

1

0

0

0

1

0

0

0

2

4

波佐見

0

0

0

0

0

1

0

0

0

1

〜駆け引き勝負は佐日が制す

 

 ボクの野球観戦は常に電撃戦だ。幸いにも、甲子園からさほど遠くない岐阜県関市に住んでいるため、日帰りで行けない事は無いが、なんせ職についていると体がいうことをきいてくれない。重い重い体を引きずりながら、仕事を終えて家で泥のように眠り、無理やり体を起こして5時、堀内君が車で迎えにきてくれた。いつものようにJR米原駅の駐車場に車をとめて、新快速で大阪駅、阪神梅田から甲子園。この道のりに来ると、次第にテンションも上がり、元気に元気に、今年も甲子園球場。

 

 甲子園球場は偉大な球場だ。すり鉢型のそのスタイルは、どの位置からも球場全体が見渡せ、こだまが返る。応援が響き、球音が雰囲気を盛り上げる。めずらしく試合開始に間に合ったぼくらだが、バックネット裏はたばこが臭い。今回もどこかの応援できたわけでないから、ぼくらは外野スタンド、センターのテレビカメラ席横に陣取った。灼熱の太陽が照りつける。朝といえど、今年も熱い。

 

 堀内君は九州びいきだ。地理マニアの彼は、例外なく都市圏以外の都市が好きだが、その中でもなぜか九州がお気に入りで、特に福岡と長崎は大好きである。そんな中、彼の公立びいきが重なり、さらに田舎の中堅伝統高といういかにもな条件を満たした波佐見、やはり応援にまわる。ぼくは、どっちでも良いから疲れ気味の体でぼんやり見る。比較的にひいきの佐日に頑張って欲しい、という思いもある。

 

 試合はいきなり動く。一回、緊張の見える波佐見新地を捉え、佐野日大、二番中村が左前にはじき返すと、2死から四番の小川完全な右狙いで右線を破り、中村君、長駒し、鮮やかに先制。さすが激戦区栃木を勝ち進んだだけある。チームバッティングが出来ている。

 ここ数年、すっかり甲子園常連組となった佐野日大は、毎度毎度目立たない大型チームを作ってくる。もうちょっと図太いチームを作ってもよさそうな感じがするが、千葉拓大紅陵のような典型的な大型チームは作らない。きっちりとした野球を無理にやっているような印象すら受けるが、それが強い。だから絶対大負けしないのだが、甲子園では必ず接戦を演じて負けていく。どうにも接戦に弱い印象がある。それならいっそ接戦をしない力任せのチームを作ったほうが勝ちそうな気がするが、それをやらないのが日大附属の意地だろうか。

 

 一方の波佐見。私には川崎憲次郎の母校というイメージしかないが、突然思い出したように甲子園に帰ってくるようで、結構その名を良く聞く。と思っていたら、なんでもこの夏で二度目の出場だそうだ。堀内君によると、波佐見町の人たちばかりが選手らしい。しかし実力は確かなようで、長崎日大を下すなど確かな実力で勝ちあがってきた。さすがに川崎の母校だけあって、エース新地君は右本格派らしく、ストレートで次の打者を三振に切って取った。

 一回裏、堀内君期待の波佐見の攻撃。同じく緊張気味の佐日先発福富君の四球から、すかさず送りバントして、そのランナーも活き、さらにそれを送って一死二三塁、そこへ四球で一死満塁。ほとんどまともなヒットも無しにチャンスを作る。

「しかし、波佐見の監督、小細工好きなみたいやな。」

波佐見の選手が落ち着かない。バントかと思えば、強振、強振かとおもえばバント。すっかり落ち着かない福富君を揺さぶるが、どうも自分のところの選手が揺さぶられている印象すら受ける。なんだか落ち着かないうちに追い込まれ、あえなく三振を喫すると、続く打者の打球もの伸びずライトフライ。絶好のチャンスを潰す。 しかしながら福富君、制球が定まらない上にいい打球がとんでるが大丈夫か?

 二回は、波佐見本格派新地君がストレートとなんか落ちるボールで三つの三振を奪う。リズムは長崎波佐見にあり。裏はいきなり新地君が二塁打し、何をするかと思ったら送り、次の打者で三塁ランナーを殺され、生きたランナーが盗塁してチャンスをつかんで、またファールフライ。なんかちぐはぐだ。さらに次の回も、ノーアウトからツーベースを打ち、死球までからむも、エンドラン送りバントことごとく失敗して三飛球。

「あの監督、策士だな。」

「甲子園に来たぐらいだから、それで今まで勝ち上がってきたとは思うけども、佐日相手にどうなんやろか。しかも相手自滅しそうなのになあ。」

「結構監督勝負になりそうやな。」

「裏の読みあい、カードの切りあいか…。策におぼれそうな感じもするけどなあ…。」

策は、運にも左右される。波佐見監督の采配は今後どう出るか。一方、佐野日大監督の采配は奇をてらわない潔いものだった。安定しない福富にかえて、サイドハンド会田。

「潔いなァ!カードの切り方が。」

「流れかわるかもなあ。」

しかし、流れが変わらない。もとより左打者の多い波佐見。見事センター前。流れ的には…。

「絶対エンドランだな、あの監督なら。」

「俺もそう思う…。」

で、エンドラン失敗して三振ゲッツー。

「今のところ完全に裏目な…。」

と僕。どうも、監督も甲子園で舞い上がっているのか、波佐見。その裏(五回表)佐日。逆に二塁打でノーアウト二塁のチャンス。ここで手堅く送り、投手会田君の犠飛で追加点。

「対照的な采配だな。」 

「今のところはな…。」

と堀内君。さすがに冷静。あの手の策、特にエンドランなどははまれば一気に波に乗る。

 しかしながら…。5回裏、波佐見先頭打者が例によって出塁すると、またもエンドラン、それが失敗し、送りバント。

「わかりやすいな…。」

勢いさえ出れば調子づきそうな超攻撃采配だが、佐野日大サイドハンド、会田の変化球に阻まれ、勝負どころで一本が出ない。会田くん、シンカーらしき変化球が冴える。

 6回裏。策の使えない二死からの攻撃で二者が安打、さらに代打川平君がタイムリーし、なおも四球で二死満塁となったが、やはり右打者にはめっぽう強い会田くん。変化球を引っ掛けさせて切って取った。やっぱり、正攻法の攻撃でも、波佐見は強いらしい。あとは勢いだけである。

 7回表、四球に、犠打に安打がからんでチャンスを得た佐野日大。6回の攻撃もそうだが、攻撃の組み方が一貫している佐野日大、ここでライトフライが放たれるも、波佐見守備陣はこれを捕殺で切り抜けた。

「これを接戦と見るか、拙攻の積み重ねと見るか、だな。」

「お互い残塁が異常に多いなァ。」

お互いの采配が空回りし、お互い勢いがつかめない。こうなると、序盤の得点と、佐野日大のはやめの継投が光る。しかし、いつかこの采配が…と思っていたら、そのまま会田君が好投を続けた。8、9回も小技でチャンスをつかんだ佐野日大は、9回、勝負を決める福田君の三塁打が出て試合を決めた。

「結構見ごたえのある監督戦だったな…。」

もし采配が決まっていたら、もっと違った展開になったかもしれない。紙一重の展開だった。あるいは一回の攻防が、この試合の全てだったかもしれない。

 

戻る