日大三VS福井商(第71回甲子園春の選抜大会一回戦・四日目第一試合)
 

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福井商(福井)

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日大三(東京)

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×

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−日大三、会心の横綱相撲


 

 3月27日。僕の住んでいる家のテレビがアンテナ接続の部分で壊れ映らなくなっていたのが、この日になおった。27日は、雨で午後からの試合開始となり、第三試合は次の日の第一試合に持ち越された。駒大校と長崎日大、東邦と平安の二試合を、なおったばかりのテレビで見る。書いている今もそうだが、僕は就職活動中である。書かなきゃならないものがたくさんある。やらなきゃいけないこともたくさんある。だけど、なんとなくやる気をなくしていた。甲子園球場に行きたい。行って野球が見たい。就職活動は順調ではない。野球が見たい。自分の一番好きなことは、やっぱり野球を見ることである。どれだけ気を引き締めてみたところで、この誘惑には勝てない。それでもお金がなく、いらいらした。

 午後九時。実家の友達に電話した。就職活動やら何やらで忙しく、たまに実家に帰っても、友達とはゆっくり遊べない。実家の友達H君は良く一緒に野球を見に行く仲間である。彼はすでに仕事を持っており、よく野球を見に行っている。

「野球見てえ。」

と僕が言うと、話がどこでそうなったか、一緒に甲子園に見に行く方向で話が進展しだした。話し合うこと30分。僕はすでに愛車に乗り込んでいる。どこでどう間違ったか、車が福井県永平寺町から、岐阜県関市をわずか2時間で結んだ。異常なタイムである。僕とH君はさっそく西宮方面に車を出す。

 

 

 

 ガソリンを入れたり、駐車場を探したり、そんなこんなで、午前5時。僕らは比叡山坂本駅近くに車を止めた。駐車禁止でないところに車を置き、5時40分発の電車に乗り込む。梅田で朝ご飯を食べ、そして、九時、甲子園球場に付いた。道草をずいぶんしたが、何しろ眠いのでそうしないと気が抜けて寝てしまう。僕らの話題は徹夜明けということもあって飛びまくる。甲子園からプロ野球に飛んで、地元の話に回ってまた甲子園にきて、そのままなぜかウルトラマンの話になったりする。わけが分からないまま甲子園球場の外野席へ。実のところ今回の旅はH君の95%出資である。まさかバックネット裏で見るわけにはいかない。ただの外野席、それも球場全体が見渡せるセンター右上へ。

 第一試合は打の日大三VS投の福井商業。どちらもエースは二年生。実績だけなら、明治神宮大会準優勝の東京日大三校が上回る。優勝候補といっていい。が、どういうわけか、この大会の前評判は、PL学園が最強で、次に日南学園、明徳義塾、東邦、横浜、平安、滝川二、と来てやっと日大三と数えられている。

「どうかしてんじゃねぇのか?」

僕は言ったが、H君は冷静で、

「野球やからどこが来ても分からんよ。まぁ、俺の本命は日南にPLやけどな。」

と言う。ま、実際何がおきるか分からないのが野球だ。優勝が沖縄尚学だなんて、そう予想した人はいないだろう。僕の本命は明徳義塾に日大三、日南学園と来て福井商、海星、そして滝川二校ほか、好投手村西擁する比叡山を応援していたが、すでにその後優勝を飾ることになる沖縄向学に敗れている。僕は実家が岐阜だが、今福井に住んでいるし、福井商の試合は北信越大会で見ていることもあって、相当期待している。この試合の勝者が、今大会の台風の目になると踏んでいる。

 

 

 

 福井商業の守備は堅い。捕手の米丸君を中心に鉄壁を誇る。高校野球だから、流れ次第でエラーすることってのはあるだろうが、エラーがもとで流れを逃す事はないと見ている。投手陣は本格派右腕山岸、同じく本格派の左腕、吉田の二枚を擁する。二人とも新二年生。北信越大会で見た二人はまだ未完成であり、高校で冬を越していないという事もあったので相当の上積みが期待された。が、どうやら二人とも調整不足と言うような事を耳にしている。山岸君はまだ肩が悪いらしい。もし本当なら勝利はないといって良い。何と言っても東京を勝ち上がった上に神宮大会でPL学園を破った強打の日大三である。まして福井商には打の部分で勝負できるような実力はない。

一方の日大三。こちらも二年生のエース栗山。打たれ強さが身上の我慢のエース。こちらは中学校時代の実績が抜群で、冬の上積みも大いに期待できる。まして比較的暖かい東京だから、投げ込み不足は考えられず、伸び率だけなら福井商の二枚看板のはるか上を行くだろう。僕がPL学園ではなく日大三校のほうを本命にあげたのもそこに原因がある。栗山投手は打たれてはいるがまだ二年生。底を見せていない。二年生が多いため守備はさほどに堅くはない。強打のチームである。しかし東京の高校だけに、試合巧者で、守備も実際は堅いのではないかと思う。打線には継ぎ目がない。気を抜くと一気にやられる。

 

 

 

 H君は、

「せっかくやで、福商を応援したるか。」

とのこと。僕も無論福井商を応援するが、どうも投げ込み不足が気になるところ。さて、プレイボール。福井商業、たちあがりの栗山投手を攻める。一番永田が打って、八尾が送って、ツーアウト二塁のチャンス。

「福井商で打つのは彼だけ。」

と僕に表された米丸君が打席にたつ。冬の間鍛えて打撃も良くなったかと思っていたが、中日新聞福井版では、「守備のチーム」と主将自ら言っていたので、多分変わってない。その主将が、見事大飛球となって外野を破り、二塁打となる。福井商の投手力と守備力なら、3点あれば守り切れる。先制パンチで福商有理か?対する日大三校、こちらは福商の鉄壁の守備網にかかり、セカンドライナー併殺。試合は福商ペースで始まった。

 

 

 

 しかし、山岸君、どうもシャンとしない感じである。二回こそ二つ三振をとったが、制球がよくないらしい。これではリズムが悪くなる。流れもやがては日大三へ。いくら米丸君のリードがよくても、日大三校がそれを何度も見逃すことはない。なにせ優勝候補、こんなところで拙攻は繰り返さない。三回裏、日大三校はヒットに死球、犠打、スクイズ失敗をあわせて二死二三塁のチャンス。日大三校門間君、ここで左中間を破るツーベース。

「おぉー。」

さすがに強い。あっという間に二点とって逆転。続く山下君もセンター前に弾き返す。が、そこは福井商業の鉄壁の守備。見事な連係プレーで本塁タッチアウト。

「堅いやん。」

とH君。堅いは堅いがここで一点取られたのは大きい。相手にミスでも出ないと、福井は流れがつかめないのではないか。福井商業は塁に選手を出すが四回も点を取れず。たいして日大三校は満塁のチャンスを作って投手栗山君がタイムリー。またも本塁で刺して福井商業これ以上流れはやるまいとするが、投手にタイムリーはまずい。栗山君のテンポもよくなり、福井商業のテンポは単調になる。

毎回ランナーを出しながら、ごまかしごまかしやる福井商。これが一点差なら相手も焦るだろうが、二点差ある。福井商業野球をどれだけやっても流れがこない展開になりつつある。速く流れを変えたい。が、僕の待ち望む投手交代はまだない。そして応援が一気に盛り上がるという展開もない。マズイ。

 

 

 

 七回、投手交代で、福井商業左腕の吉田君が登場。が、これもどうもあやしい。七回は押さえたが、8回に先頭打者に四球。そして三塁打、犠飛。日大三校、一本のヒットで二点を奪い勝負あり。H君は途中から試合の流れを見切って

「野球でもなあ、これはもう駄目やぞ、いくら野球でも。」

そりゃそうかもしれない。逆転、中押し、ダメ押しと食らっている上に、流れが変わる要素がほとんどない。守りのチームに4点かえせというのが無茶だ。ホームラン、ラッキーパンチが出ない限り、そして、日大さんが自滅しない限り。…なんだ、結構わからんじゃないか。野球はツーアウトからだ。

 

 

 

九回待望の日大三校の落球。が、時すでに遅し。それで一点とってもすでに日大三校は痛くも何ともないらしい。落ち着いて栗山君が後続を断ち、そのままゲームセット。日大三校の完勝。

「思ったより、ワンサイドやったな。」

点差以上の点差を感じた。さて、次の試合は岩国対水戸商。少しぐらい見逃しても大差あるまい。僕らは次の試合が始まるまでちょっとダイエーに買い物に行った。

 

 

 次の日の新聞(福井版)には、福井商では「力負けしたとは思っていない」というコメントがあった。そりゃそうだろう。福井商の試合をほとんどさせなかった日大三の、試合運びのうまさが光った。が、これが力の差であることも忘れてはならない。頼むぜ、北野監督。

 

 

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