福井商 対 松商学園

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13

14

スコア

松商学園(長
野)

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0

0

3

0

0

0

0

0

0

0

0

0

1

4

福井商(福井)

2

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0

0

0

0

0

1

0

0

0

0

0

2x

5

−センバツを賭けた名勝負

 

 福井商にはくせダマの投手が多い。ライバル敦賀気比の本格派志向とはえらい違いがある。話は横道にそれるが、敦賀気比高校は渡辺監督を解任した影響も合ってか、福井開催のため四校出場できる北信越大会にさえ出ることができなかった。話を戻す。ライバル福井商は今年も強い。くせダマ投手の多い福井商にはめずらしく、この日登板した右の山岸、左の吉田は、本格派タイプの投手であった。後で知ったことだが福井商のエース、山岸と、背番号10番の吉田はどちらも秋季大会時点で一年生だそうである。

 二回表ぐらいに球場についた。甲子園近くで育ったK氏(バードネームトキ・以下トキ氏)、スポーツ全般を見るのが好きなS氏(通称クマ・以下クマ)、福井県出身のT氏(バードネームペリカン・以下ペリカン)というメンバー。三塁側スタンドは秋晴れで、暑いのか寒いのかわからないような天気である。試合は一回裏に福井商が2点とってリードしている。

 見れば、福井商はさほど速球は速くない感じのエース、山岸が投げている。さほど変化球も切れるわけではなさそうだが、ひじの出が遅く、見えにくそうな球を投げる。バランス良い投手だ。聞けば一年生投手だというから、将来有望である。たまに伸びと言うものは感じず、そんなに速くは見えないが、体調がよいときは130キロ代後半のスピードボールを投げるらしい。体力が上がれば速球ももっと伸びるだろう。コントロールは上々だ。これでもか、というほど低めにコントロールされる。まれにボールダマもあるが、あれがど真ん中に行くよりマシである。守備に自信がある福井商には願ったりのエースだろう。後から聞いたが、彼はそれほど体調よくなかったそうな。

 対して松商はのらり、くらりだ。投げる投手はエースでは、ない。なぜだか打てない。福井商は強打のチームでないから、正攻法で行けば押さえられるだろうが、エースが投げていないということは松商学園はよほどの余裕か、それとも二枚看板か。ただ、そんなに打てない感じの投手でない。内野三塁側スタンドといっても、福井県営球場はファールゾーンが狭い球場であり、客はそんなに入ってないからいい位置で見られるのだが、それでも打てない感じはしない。

「俺でも打てるで、あのピッチャー。」

 軟式野球のチームに属すトキさんは言う。手元で変化しているのかもしれないし、サイドに微妙にずれているのかもしれない。ただ、間違いなくタイミングは取りづらい。松商の北原という投手と、上田という捕手はよほど息が合って相手を惑わせていると見える。

 僕はいつかプロに入るようになる選手を探している。発掘もなかなか面白い。でもさすがにこれは、という選手はたくさんはいなかった。まだ新チームが始まったばかりの段階だから仕方ないだろう。が、一人だけ見つけた。松商学園の三番バッター荒井選手である。右の脇が開いた上段の構えで、きっちりとバックスイングをとり、脇を占めてコンパクトに降りぬいている。コンパクトではあるが、踏み込みはできており、バックスイングがしっかりしているため、決して小さいスイングではない。こいつは打つぞ、と見ていたが、そう甘くもなかった。打てない。

 試合は4回表の松商学園の攻撃。無死一二塁。鉄壁の守備を誇るはずの福井商がまさかのエラーから浮き足立って、相手投手北原にも安打を浴び、自責点1の3失点を喫した。野球というのは相手のミスを待って勝つのも強さである。相手がミスしなかったら、こちらの方が弱いが、神経戦に持ち込んで相手のミスを待つ、そしてミスに乗じて勝つ。そういう野球も強い。だから守備は大切だが、新チームで守備をとやかく言うのもどうか。流れをうまくもってきた松商の方が強いのだ。

 と、したり顔で言っていたらそこから恐ろしい展開になった。両チーム恐ろしいほど守備が堅い。安打になるような当たりは全て守備が取ってしまう。難しいバウンドを平気な顔してとるだけでもすごいが、両チームヒット性の当たりまで飛びついてとってしまう。これこれ、これを待ってたんですよ。僕好みですよ、こういう試合。

「うまいなぁ。」

 と来ていたみんなが言う。一二塁間を福商の八尾が押さえれば、三遊間に松商の呉本が飛び込み、二遊間を福商藤井が押さえれば、内野安打を松商奥原が阻止する。すばらしい守備力。

 松商と福商はそれぞれ打たないチームだ、という見解を僕とトキさんは持っていたが、どうやら違うらしい。元々つなぎの打線で勝ってきたチームだが、つなぎの安打を全部相手に止められてしまうのだ。

「全部とっちまうもん。」

 やたらと守備がいい。固い。両チームともこれだけ守備のいい相手と戦ったことはないのではないか。ミスをしたほうが負け。こういう展開で勝てるチームが、甲子園でも強い。

 7回、福井商はリリーフに背番号10番左の山岸を投入してきた。

 速い。すさまじいボールを投げて来る。上半身だけで投げるバランスの悪いフォームで、踏み込み位置と足の上げ方が、まったくもって安定していないが、とにかく速い。135キロ、あるいはそれ以上出ているか。あとから聞いたが彼も一年生で、冬を超えてないらしい。どうりで福井商の選手にしては下半身が安定していないと思った。登板してすぐ、3人斬り。

 8回。福井商のチャンス。福井商では主砲の米丸君が打つ。守りのチームの四番でキャッチャー、米丸君の打球は、いかにもそれらしい勢いで飛んでいき、見事同点となった。

 流れは明らかに福井商へ。しかし松商学園は投手を変えてきた。エースナンバーをつけた松下君である。松下君は本格派で、きれいなフォームから、伸びのあるストレートと遠目からでもわかるカーブを投げる。カーブにしてはスピードがあったから、スライダーかも知らないが、それが内野席から変化がわかるのだから、そりゃあもう、すばらしい変化球だ。よく分からないがハーフスピードのボールがあったので、シュートもなげるのかもしれない。

 前半のなんだかのらりくらりとした展開から一転、吉田、松下の登場で緊張感あふれる投手戦となった。吉田君のほうは9回を回って疲れてきたらしく、フォームがバラバラ。

「おい足の上がり方がひどいで。」

「腰もまがっとるしな。」

 僕らはにわか知識で吉田君の心配をする。吉田君がえらいのはどれだけむちゃくちゃなフォームでも、胸だけは張れていたので、さほどに球威が落ちなかったことだ(落ちてはいたが)。が、いかんせん下半身と腰が安定しないと、伸びるボールは投げれないし、コントロールも乱れる。自然、ウイニングショットが決まらない、決まらない。しかし、松商学園は、まだ未完成の打線だから、ウイニングショットなどなくても押さえられるようである。10回、11回とグラグラしながら、なげる吉田君。7回から投げているから、リリーフとはいえ、つかれているだろう。12回はなぜか足も上がり、テンポよく投げていたが、ほかの回は危なっかしい。が、福井商業の鉄壁の守備が、松商学園にそれ以上のスキをまったく見せない。

 松商学園のエース、松下君はまったく安定した投球を見せる。呉本など、松商は積極的に前に出る守備で、危なげなく福井商業を押さえつづける。投げ続けて、イニングは13回、松下君の出来からして、松商学園有利に思えた。

 14回表、松商の上位打線は、僕のお気に入り選手、荒井君の前にランナーを出した。吉田君はフラフラしているが、まだまだ球威がある。荒井君はきれいな構えからの鋭いスイングを2、3回。痺れがくるような瞬間である。勝負は案外簡単についた。これまで凡退を重ねていた荒井君が、吉田君の速球にタイミングを合わせ、見事に大飛球を飛ばす。さすがの福井商業外野陣も破られる。

「終わったな。」

「うん。」

「ええ試合やった。」

 待望の一点を手にしても、まだまだ落ち着いた感じでマウンドに向かう松下君。ずいぶんとたのもしげに見える。

が、野球というのはそれでは終わらない。福井商業の打線では打てないと思っていた松下君だが、福井商業は土壇場で、彼を攻略する。

「おいおい!」

 まだわからない。松商の守備に乱れはなく、そして松下君の球威にも衰えはない。そして流れは松商学園。それでも福井商は追いつく。タイミングが合ってきたとか、そういうものだけでは測れない野球の何かを見た気がする。

 松商側は大変である。手に入れたはずの試合だが、福井がホームゲームの利ということもあってか、最後の最後で粘りを見せる。伝令も出れば、キャッチャーも声を出す。松下君自体はそれ程に崩れていないらしいが、福井商が勢いに乗ってしまったらしい。米丸君らの中心選手に続き、下位打線も打ってついに追いついてしまった(この辺あんまり覚えていません。書いたのがかなり後日なので。)なおもランナーが三塁に残り、バッターは好投を続ける吉田君。バッター吉田君は、こちらでもバランスが悪いフォームで、突っ立っているが、松下君の投げた直球に体ごと追いつくような感じでセンター前に弾き返した。

劇的な逆転サヨナラ。高校野球はおそろしいと思った。

 

 さて、この試合の後、金沢対高岡第一という試合があって、それはバックネット少し三塁よりで見たのですが、残念ながら、資料を無くしてしまいました(上の試合が最後いいかげんなのも全部そのせいです。うらめしや就職活動)

試合のエッセンスを軽く残して変わりといたします。ノックでは金沢は声が出ており、元気な様子。たいして高岡第一はすぐにそれと分かる管理野球。どっちが強いか、と思ってい見ていたところ、試合前練習では高岡第一のほうがうまいようで、これは面白くなるな、と思いました。

が、試合が始まってみると、制球の定まらない高岡第一の先発投手を金沢の打線があっさり攻略。2回、まだ制球の定まらない高岡第一の投手に対し、高岡の監督は伝令も送らず速効で投手交代という暴君ぶりを発揮。その後の試合ははっきりノリノリの金沢に対し、お通夜の高岡第一。金沢は控え野球部員たちがお祭り騒ぎで応援しているのに対し、高岡第一は拷問のような野球部三人の口ラッパ。

 金沢はエースを出さない余裕の楽勝。高岡第一は実力以前にチームが流れをつかめなかったのが痛かった。

 ってなもんです。ハイ。

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