日南学園 11-9 平塚学園

1

2

3

4

5

6

7

8

9

スコア

日南学園(宮崎)

2

6

0

0

0

2

0

1

0

11

平塚学園(西神奈
川)

1

0

0

0

0

0

7

0

1

9

−ラッキーセブンの大逆襲

 

 8月14日、三試合目の観戦。正直疲れてきた。何といっても暑い。

 第三試合はその暑さにやられかけの体を更に熱くして風邪をひかせてしまう試合であった。実際H君も僕も風邪をひいた。

 日南学園は今大会屈指の打のチームである。長打を浴びせて倒すのではなく、単打をうちまくるのだ。大物打ちの赤田、吉武、双子の黒木兄弟、顔の愉快な松山主将と、熱闘甲子園で番長といわれていたセンター鳥越など、話題は尽きないが、そういった選手だけでなく、一番の東、二番の渡辺、三番の桃園とライト打専門の上位打線で確実にランナーを進め、赤田、吉武、松山でドカンと返す。とにかく切れ目が無い。なんせセンバツで150キロを記録した高鍋の矢野投手を打ち砕いて甲子園にやってきているのである。チーム打率は359。甲子園に出てくるチームにしては平凡な数字だが、数字以上のものがあると考えて良い。

 対する平塚学園は、あきらめない精神で、最後までくらいついてくるチーム。一回戦で日南学園を上回る大会最強を誇る豪打の九州学院を下している。PL学園や、横浜、明徳、豊田大谷といった強打のチームを私の目から見てはるかに上回る、超強力打線九州学院(確かに投手はさほどでもないのだが)を、粘り一つで下してしまった、とんでもないチームである。日大藤沢、東海大相模など、強豪居並ぶ西神奈川大会を勝ち進んだ、チームワークのチーム。野球漫画にでも出てきそうである。しかし、僕とH君は平塚学園が九州学院を破ったのはフロックであると思っていた。どれくらいやるか、正直言ってわからなかった。

 暑い。飽きもせず、飲み物を飲む。今度はCCレモンなど飲んでみたりしていたら、後ろのほうにやけに声の甲高いおっさんと、だみ声のおっさんが会話を始めていた。

「あの、一宮、ってあれか、愛知県の、尾張のあれかい。」

「そうだわ。繊維の町やったかいな。」

「で、どっち応援するね。平塚応援すんねや?」

「そうやなあ、平塚のショートのシーモアが気になるし…。」

甲子園でどちらを応援するか決めない辺り、どうやら地元の人らしい。大体、一宮から一気に甲子園に話が飛ぶ辺り、色々な意味でただ者ではない。H君は

「そうや、一宮は繊維の町やわ。よぉ知っとるやんか、後ろのおっさん。」

と、妙なところで感心している。こんな所で彼の地理マニアの血がよみがえるとは思いもよらなかった。

 ラジオ片手に観戦する後ろのおっさんの話によれば、シーモアはハーフらしく、日本語はペラペラらしいのだ。確かに気になる。守備練習ではシーモア遊撃手は軽快な動きでゴロをさばいている。

「シーモアやるやねえの。」

「さすがハーフ。」

 関西人らしい妙なトークが後ろから飛んでくる。どうやら彼らの頭の中にはシーモアの事しかないらしい。シーモアの顔はどんな顔だとか、妙な話ばかりしている。とはいえ僕も気になる。

 試合が始まった。いきなり赤田のツーベースで二点を先制する日南学園。

「さすがぁ。」

 日南学園の打者はやみくもに打つのではなく、ボールに逆らわないバッティングで痛烈な打球を飛ばしている。裏に平塚は一点かえすが、二回表、日南学園の絶え間ない集中打が平塚に襲い掛かる!

 先頭バッター鳥越サードエラー。黒木透一郎バントヒット&エラー、春永犠牲フライ、東が右前、渡辺がセンターオーバー2塁打、桃園死球で歩いて、赤田の連続タイムリー、とどめの吉武右二塁打。

「無茶苦茶やな。」

 とH君。これだけ打つと気持ちいい。こうなりゃ何点取るか、われらは見て行こう。

「おい、なにやっとるんや、シーモア。」

 後ろのおっさんらはやられた原因をシーモア一人に押し付け、話題を変え始めた。

「かんぺいちゃんが…。」

「ヤッサンおもろかったで。」

「西川キー坊の嫁さんが…」

 吉本トークに花が咲くおっさんら。そうこうしているうちに、日南学園は変わった杠からも6回に2点をあげる。応援マニアの僕は、日南学園の応援を見る。

「G・A・K・U・E−N!日南学園オー!」

 リズミカルな応援である。ただ、GAKUENは日南学園の学園、の部分だろうが、平塚学園もGAKUENである。妙な応援になっているものだ。ただ非常に元気。対して、平塚学園の応援は3回あたりからお通夜。どうにも元気が無い。が…

 時は流れて6回裏。平塚学園側アルプスの様子がおかしい。妙に元気なのだ。

「ひらきなおっとんな、あれ。」

 とはH君。結局6回裏は無得点。7回表は日南三安打しながらも無得点。で、平塚学園の攻撃前。応援団を中心に妙にザワザワしだした平塚アルプス。すると、学生の一部が叫び始め、応援団が後ろを向いたかと思うと、男子生徒、女子生徒、みんな合わせて右腕を突き上げる。

「イーチ!ニー!サーン!ダー!」

 そこにいるのは猪木か春一番か?きっと日南学園応援団には名物男がいるのだろう。あとは球場割れんばかりの大応援を始めた。野球の流れは応援でも変わったりする。明徳義塾のシンバルを使ったたたみかけるような応援、中京大中京の、なんか怖い和太鼓と声の応援、関大一校の大声援、PL学園の一糸乱れぬ応援、創加のトリコロール、そして郡山高校の郡校音頭。これだけで結構流れが変わるものである。流れは大切。流れが士気を挙げ、相手の守備を乱す。

「何点か返すで、これ。」

と僕が言えば、

「かもしれんな、こりゃすげえわ。」

 とH君。平塚学園、火の点いたような逆襲開始!吉田が内野安打で一塁を駆け抜けると、藤原デットボール、田中、馬籠の連続ヒット。金子ファーボールで歩いてついに春永をノックアウト。続くシーモアは三振。

「シーモアー、シィモァァァアア!」

のおっさんの声も届かず。よほどシーモアが好きと見える。強く生きろ、おっさん。平塚学園はシーモアだけではないぞよ。杠が二塁打、早見が歩いて、吉田の二塁打。

「おいおいおいおい!」

一挙七点の猛攻。おっさん唸る。

「うーん。」

「この面白さは野球しっとるもんにしかわからんやねえ。」

「野球はおもろいぞぉ!」

そのとおりだ!

 平塚学園は結局イニング7点というビックイニングで一気に2点差まで詰めた。5点ぐらい取られたあたりから、守る日南側スタンドも悲鳴にも似た応援をし、3アウトとった瞬間は安堵の大声援だったが、平塚学園の方は3アウト取られて溜め息。しかし日南の「わー」という声援が消えかけないうちにもう一度「よくやったぞ」といわんばかりの、それこそ特大の声援が平塚ベンチに向けられた。こういうのを見ると高校野球っていいなぁって思う。

 8回表の番長鳥越のタイムリーツーベースがでて、流れを戻そうとしても、平塚学園の大応援は変わらない。日南学園の応援団も、一点追加して乗らないわけが無いのだが、平塚応援団に声をかき消される。そして迎えた九回裏。なぜか平塚学園が勝つような気がしたのは僕だけではないはず。球場全体がしびれた九回裏、打ちも打ったり平塚学園1点返すも、ライト吉武の再三の好守が日南学園の危機を救い、ゲームセット。強烈な打球を一直線に追って簡単そうに取った吉武の守備は見事。ここでもまた守備の大切さを知った。

 日南学園の校歌が流れる中、平塚学園の応援団は、一緒になって、むしろ嬉しそうな感じで大手拍子を送っていた。日南学園の応援団もそれに負けずに校歌を歌っていた。いや、すばらしきかな甲子園。9点差が何と2点差に。脅威の粘りを見せた強い平塚学園は、大応援団に迎えられ、球場全体に暖かい拍手を送られて、グランドを後にした。

 平塚学園の勝負強さに驚嘆しながら、H君と

「ええ試合見たわー」

と声をハモらせながら帰った。

帰る途中も

「いやぁ、久久に興奮したねえ。」

とおじさんらが口々に言うのを耳にした。感動をありがとう!平塚学園!!

 

前のページへ