明徳義塾 7−2 金足農

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スコア

明徳義塾(高知)

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2

1

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0

0

2

0

7

金足農(秋田)

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0

2

0

0

2

−試合巧者に栄光あれ!

 

 二試合目は、高知の強豪、明徳義塾、秋田県代表、全国最後の登場となった金足農業高校の対戦。一回戦を劇的な勝利で飾った明徳義塾は桐生第一のためにも負けられないところ。先発はもちろんエース寺本…あれ?彼はファーストでミットを持っている。投球練習をするのは10番を付けた高橋。勝負師、馬渕監督は、寺本と心中といって選抜で泣いたはず。うーん、寺本に何かあったのか?

 実を言うと僕は明徳義塾のファンで、吉川投手時代の明徳義塾には、優勝の期待をかけたものである。しかし、明徳義塾は松井に対する全打席敬遠で、すっかり悪者扱いされている。勝つ事が前提にあってこそ、初めてそれにぶつかって青春である。それで負けたら仕方ない、と思えて初めて青春である。それならサッカーでエースを封じるのに三人ぐらい使ったら悪者扱いされるのか?全打席無条件で塁に出ている事を忘れてはならない。教育の一環である高校野球でこそ、あの敬遠は許されるのだ。三年間野球だけに、勝つ事だけに情熱を燃やしてきた高校球児に、勝つための手段をとらせない監督のほうこそ残酷であると思う。そういえば、あの年の星稜は、勝ちあがりもしなかったのに国体に出たっけか。今年の選抜ではエースで四番寺本四郎が全打席敬遠されたが、あれは全く話題にならなかった。松井見たさだけに汚い報道をし、明徳だけに変なイメージをつけた報道陣に腹が立つが。時が前後するが、98年の明徳は横浜と戦って負け、その球児の涙の美しさを見て、「明徳、許す」と思った人が多いそうである。許すも何も最初から悪くないのに…。

 そんな話もH君としながら、明徳の練習を見る。H君も四国野球の信奉者である。

「あれは正しい」

と彼も同意してくれた。

 話をしながら、スタンドから高橋を見る。高橋はなかなか小気味のいいピッチングをする。

 対する金足農業は、H君の一押しチームであった。

「金足は甲子園に出てくると強いんや!」

確かに今年のチームは、中軸がしっかりしており、投手陣も悪くない。が、相手は試合巧者の明徳義塾である。

「所詮秋田レベルやろ?秋田の強いチームなんて知らんぞ、ここんとこ…。」

というと彼は不服満面にして言う。

「金足は過去ベスト8と、ベスト4があるんやて。しかもそのうち一回はKKのときのPLで、途中まで勝っとったんや!」

 確かにそうである。秋田、秋田商、秋田経法大付属、金足農業の秋田4強のうち、甲子園でもっとも輝かしい成績を残しているのが金足農業。秋田経法大付属などは、小野(現巨人)という快投手を擁しながらも甲子園で活躍する事は出来なかった。

「明徳義塾は確かに強い、やけど、金足はいいぞ、金足は。」

 四国野球(電光石火の攻撃と堅い守り)の信奉者である彼が、宇和島東と明徳義塾の両チームを応援していないのは意外である。明徳義塾を応援する僕と、金足農業のよさを語るH君が激論を交わす中、試合開始のサイレンが鳴った。

 明徳義塾の一番バッター俊足強打の藤本は三振。H君曰く

「ツルハシは危ないぞ」

のサード津呂橋はサードゴロ。つるはしと津呂橋をかけるあたり彼もまだ若い、というか幼い。危ない人間かどうかは知らないが、明徳で二番を打つのだから相手チームには危ないのかもしれない。一安打はさんで寺本三振。対する金足打線も、高橋の切れのいいボールを打てないで三者凡退。試合は静かに始まった。

「ほれみんせぇ、点取れんかったら金足ペースやて。」

 丸出しの美濃弁で熱く語るH君。僕にはテンポ良く球を放る高橋の球が、金足打線に捕らえられるとはとても思えないのだが。

 あまりの暑さにH君はビールを飲み、僕は凍らせたアクエリアスを吸う。暑い。たまに吹く浜風は、吹くと涼しいのだが、気まぐれな風のため一度吹いたら暫く止む。だからかえってその後の暑さが際立つ。うちわをあおいでも、あおいでも、あおいでも、なお、暑い。

 試合は二回、明徳五番谷口が打ち取られた後、松本が中前安打、四球で続いて、送りバントランナー生き、敵失からんで明徳先制点。さらにスクイズ!明徳義塾馬渕監督、相手の失策からは容赦なく点を取って流れを明徳義塾へ。試合も熱い、いや、ワンサイドになっては熱くもないか。H君、

「あかん、だめや。ごめん。俺が悪かった、金足あかん。」

と早くも白旗をあげる。

「いや、わからんよ、明徳義塾は自滅するチームやし。」

 と僕。そうなのだ。センバツではPL学園を押していながら寺本が四球で自滅した。試合巧者である明徳義塾であるが、流れを大事にするあまり、相手も試合巧者であった時、その策を逆手に取られてしまう。例えばセンバツでも、PL学園戦の9回裏、投手交代をすればそのまま押し切られてしまうと見た馬渕監督は寺本を続投させ、最後の采配を振るう中村監督のPLはそれを逆手にとって持球戦術に出た。そして押し出し4球。寺本は自分のHRで取った一点をフイにし、同点されている。まさに一人相撲。もし金足農業が試合巧者であれば、わからない。野球ってスポーツは、ワンサイドゲームにならなければ、二転三転当たり前である。

 しかし、やはり一度決まった流れはそう簡単に戻らない。流れというのはここで失策を生んでしまうものである。金足農業、3、4回にも明徳義塾に失策を衝かれて加点を許す。5−0。

 7回裏、試合に転機が訪れる。高橋が突然乱れたのだ。明徳エース寺本はよく乱れる投手だが、高橋が乱れるとはこれまた意外。センバツPL学園戦での、押し出し四球が思い出される。明徳、生き残れるか?しかし、金足農業、一安打を絡めるだけで2点にとどまった。ここで投手を換えないところが馬渕監督のすごさであろう。

 8回、寺本がファーストゴロを放ち足を痛めて裏にベンチへ。スタンドから見ていたら余裕こいてるようにしか見えなかったが、実はねんざで全治三週間だったそうだ。それでも数日後には回復して先発するのが寺本らしいが。点を取られたすぐ後に点を取り返すのが試合巧者。明徳義塾、主砲寺本が怪我をしたにもかかわらず、5番谷口らがキッチリ打って二点加えて試合を決めた。高橋はきっちり二点完投。後から知ったが、東北勢は史上三度目、一試合も勝つことなく夏の甲子園を去ってしまったそうな。

「あかんわ。金足情けねえ。」

 そう言うな、H君。当たった相手が悪かったのだ。金足はそんなに弱いチームではないよ。

そういえば、帰る途中、大阪駅で金足農業の応援団が、列車を貸切りにして帰って行くのを目撃した。H君は帰宅中

「あれはどこまで行っただろう?」

としきりに気にしていたが、あれは彼の鉄道マニアの血か、それとも高校野球マニアの血が気にさせたのか?

 …どうでもいいけど。

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