聖望学園VS日田林工

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スコア

聖望学園

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日田林工

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×

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−それいけ聖望応援団

 

 この年、選手権の埼玉県大会の注目は何といっても投の小沢、打の大島だった。大島擁する埼玉栄と鷲宮の前年度代表校と、小沢擁する花咲徳栄(はなさきとくはる)に、浦和学園、東農大三、大宮東、春日部共栄といった強豪がまさにつぶし会うといった感じで消耗戦を続け、恐ろしいほどの大激戦を制したのは前評判の高かった聖望学園である。

 これだけの潰し合いを制したのだからさぞ強いだろう、しかも運良く二回戦から登場で、休養もたっぷり、これはと思って注目していた。このチームの大黒柱は、プロ注目の遊撃手、鳥谷。リリーフエースとしてマウンドにも昇り、打っては三番左打席から快打を飛ばす。

 対する日田林工は大分大会を前評判通りに勝ち上がった古豪、いまいちどんなものかわからなかったが、相変わらず判官びいきのH君が、好きなチームだそうな。

 注目したからといって応援するとは限らない私。とりあえず、応援団の調子はどないなものか、ゆっくり見ることにする。

日田林工のエース藤内君は、初回からいきなり苦しそうなピッチングが涙を誘う。外野席から見ているが

「いきなりつかれとるんか…。」

と言った声だが、

「何を一取るんや君は!」

とH君に叱られた。あまりバランスの良いフォームではないが、力いっぱい投げるボールにはそれなりに力が有りそう。

とはいうものの、強打の聖望学園、これをがんがんとらえていく。一打席目からびしびし振っていって、今にもとらえれそうだったが、何とか日田林工はこれを抑えた。聖望の応援もなかなか必死っぽく結構そろって好感度高い。あの激戦を制したのだから、盛り上がらなければウソ、というところか。

 一方の聖望学園エース池田君、こちらは伸びのあるボールでぐいぐい押していく感じだ。もう、見るからに聖望学園の勝ちといった感じだが、H君の目がどこか血走っていて怖い。どうも私学があまり好きではない傾向のあるH君、日田林工が、その校名ゆえに応援したくなるのだろう。日田林工応援団は、特大メガホンを持って、ゴキゲンで、少ない人数でもナカナカにイキの良い応援をしている。ただ、友情応援(近隣の学校のブラスバンド部)かもしれないな、とは少し思ったのだけれど。だって林工だし。

で、これは、聖望学園が勝つかなぁ、と思っていたら、藤内君、二回は三振二つに抑えた。どうやらそういうキャラなだけで、結構好投手らしい。

 試合は三回表。ピンクレディーのサウスポーの時に限って、みんなものすごい応援を繰り出すネアカな感じの聖望学園は、一死から内野安打二本と二塁手の暴投でチャンスをつかむと、鳥谷君がきっちりと犠牲フライ。僕には先入観があるからか、凄く強い野球をしているように見える。藤内君は、いつまで持つのか?

 しかし、試合の流れは4回裏に突然変わる。突然聖望の池田君が乱れ始めたのである。死球を与えるも、守り側がダブルプレーを取って事無きを得るが、その後二塁打を打たれる。なんか、急に聖望学園に暗雲漂う。5回表、聖望学園は鳥谷くんの大三塁打で一点奪うが、後続が断たれ、応援団も拍子抜け、対する日田林工は軽やかにブラスバンド唄って、メガホンが揺れる。

 どうにもはっきりしない天気が、投手を狂わせたのか?いつまで持つのか、というのはどうやら池田君の方だったようである。5回、鳥谷君のフィルダースチョイスもあって、一点とった日田林工は、なおもランナーを二人置いて一番行村君のタイムリーツーベース。続いて須藤君のセンター前。あっさり、実にあっさりと4点とった。

「いよぉし!やった。」

と日田林工ファンHくん。本当に嬉しそう。

「ほれ、みんせえ。強えやら、日田林工!」

 うーん。どうかな。聖望学園の自滅に見えて仕方ない。というよりは、日田林工マジックかもしれない。いきなり流れが変わるというのは、高校野球ではたまにあることだが、ここまでキレイに変わるのも珍しい(今大会は良くあった。監督の采配ミスも多かった)。

四回時点で既におかしかった池田君は、事故のような点の取られ方でマウンドを降り、変わって遊撃鳥谷がマウンドに登場。

「投手兼任…なぁ。」

 僕は釈然としないで見ている。回の途中から野手がマウンドに上がるのは、肩もできないし、あまり感心しない。鳥谷くん、バランスの良いフォームで投球練習。しかし、もうペースは完全に日田林工である。このあたりは、強豪ながら初出場の聖望学園と、久しぶりだが古豪の日田林工のチームカラーで勝負がついたと言うべきか。何せ外野から見る分には鳥谷君も池田君も対して球威は変わらないのだ(実際は鳥谷の方が速いらしいが)。

 試合の流れをつかむと、藤内君の必死の投方が冴える。体全体を使ったフォームというのは、意外とコントロールが良くいくもので、安打は許すが、決定打を許さない。

 一方の日田林工、6回裏、曇り空の中集中打で鳥谷君をも攻略し1点追加、なんだかわからないうちに日田林工が三点リード。こうなってくると、聖望学園、応援団もどこか湿りがちになってくる…と思ったら次はラッキーセブンだった。

 聖望学園1塁側アルプススタンド、ここぞの場面で「サウスポー」これが大盛り上がりだ。

 あの、ぱぱっぱぱっぱ、という華麗な前奏中は、アルプスがしゃがんでしーんとしているが、ぱぱぱぱっぱぱぱぱ!と前奏が終わった直後

 「GOGOGO!!」と立ち上がりながらさけんで背番号1のと続くわけだが、背番号1の凄い藤内君はサウスポーではない(笑)。しかし、この応援が凄くて、GOGOと叫ぶ際に、球場全体(さすがにグラウンド内はそうでもないだろうが)がそっちを振り向くのである。そういう強力な応援団に愛される野球部、聖望学園は8回に鳥谷の安打を足がかりにチャンスをつかむ。変わりに遊撃に入った北堀君が続き続く渡辺君がタイムリー。池田君に代わって三塁を守る福室君は当たりそこないの1塁ゴロ、三塁ランナーが突っ込むのを、捕手内山君が外野からでもわかる完璧なブロックで突入を許さなかった。

 

 試合内容は、聖望学園が勝っていた、が、試合の流れを完璧に物にしたのが日田林工だった。さすがに地方大会を危なげなく勝ち進んだだけある。9回、ついにサウスポーばかり流すようになった聖望学園応援団の必死の応援も届かず、三番鳥谷には四球、続く四番宮崎君をセンターフライに討ち取って、見事日田林工が勝利した。でかいメガホンも喜んでいる。

「まあ、凄い応援やったな。でも、平塚学園の方が凄かったと思うぞ。おれぁ」

と僕が応援好きであることを知るH君は僕を気づかうように言ってくれた。ともかくも、日田林工が勝って喜んでいる。

 

 

 ところで、この試合、確かに聖望学園の応援は素晴らしかった。しかし、この試合の敗因も、実はサウスポーにあるのでは、と思うのだ。例えばこれがもう少しテンポある応援だったら、試合の流れ後と代わっていた可能性がある。そう、あの平塚学園のように。といってもこれはむちゃな相談で、仮説でしかないのだが。

 

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