宇和島東 5−4 佐野日大
 

1

2

3

4

5

6

7

8

9

スコア
佐野日大高(栃
木)

0

1

0

0

0

1

0

4

宇和島東(愛媛)

0

2

0

0

0

1

1X

−あまりに短い球児達の夏

 

 8月14日、その日はお盆休み二日目。私は大学生なので関係ないが、すでに職に就いている我が友達は少々疲れ気味である。JR岐阜駅から青春18切符で快速電車を乗り継いで、梅田駅から阪神電車で、やってきました甲子園。

しかし…。最初は…

「だりー!」

「腹減ったぁ!」

「うぁ!眼鏡こわれたぁ!」

 ってなもので、すでに一回戦の試合が始まっているのに、隣に建っているダイエーへ。友達のH君は眼鏡の鼻にかかる部分がぶっ壊れてセロテープで応急処置をするというひどい目に会い、なかなかに前途多難。試合は進んで4回へ。日大カラーのピンクがスタンドから鮮やかな栃木代表佐野日大は、名称上甲監督率いる牛気打線の愛媛県代表宇和島東に苦戦気味。僕らは眼鏡の応急処置が終わり、ラーメンを食いながらダイエーのフードコートでTVを見る。

「佐日も相手が悪かったなあ。」

「弱くねえんだけどなあ、佐日。」

「んだ、んだ。」

 ラーメン食いながら口々に感想を言う。

 さて、いよいよ甲子園…と思いきや、

「すいとるうちに買い物すませよ」

「んだ、んだ。」

 周りの店で私はうちわを大量に買い込み、友達はテレホンカードを物色。毎年見慣れた甲子園球場の売店ながら、毎回目をときめかせて買っているあたり、まだまだ僕らも若いもの。

 試合は進んで6回裏。われら二人やっと甲子園の外野席、センターバックスクリーン左に登場。

「何や、佐日追いついとるやんけ。」

 といった直後に宇和島東、越智のタイムリーで勝ち越す。

「やっぱ強えなあ、四国」

と友達。僕はうなずきながら周りを見渡し、売り子の兄ちゃんに越えかけて、

「その凍ったやつくれい!」

と凍らせたオレンジジュースを購入。

「はい、シャーベットっすね!」

とやたら元気な兄ちゃんは商品を渡していうが、これは凍らせたオレンジジュース。シャーベットでは断じてない。

 7 回追加点を上げた宇和島東。僕らはひたすらオレンジジュースを吸う。そういえば、今年の甲子園は、やけに観客が多い。裸の奴等は昔からよく居たが、今年は裸もやけに多い。H君はしきりに言う。

「海と勘違いしとる奴がおるゾ。」「ここは海じゃねえゾ。」

 それぐらい許してやりなよ、我が友よ。それでも彼は毒つくのをやめない。

「浜風吹いても海じゃねえゾ」

 カキーン。

「涼みにいくなら海にいくか、プールやろ。」

 カキーン。

 しゃべっていたら、佐野日大が連続3ベースで同点に追いついた。

「オォ!」

 今ごろに気がついた友達は四国野球ファンのくせに佐野日大を応援し始めた。

「栃木県から二年連続で出てくるだけはあるな!」

 と、友達は言う。いかにもマニアっぽい一言である。八回裏、九回表と両チームランナーを出しながらも無得点。試合は徐々にヒートアップ。佐日側スタンドはピンクが踊り、宇和島東スタンドは勇壮に太鼓が響く。

 9回裏。佐日の投手、連続ファーボール。さらに犠打野選でノーアウト満塁。

「終わったか?」

「んだな。」

僕と友達はにやにやしながら試合を見つめる。

「惜しかったな、佐日。」

「んだな。」

 宇和島東は四番丸石が右翼越えの強烈なさよならヒットを打ち、ゲームセット。

 倒れこむ佐野日大ナイン。僕はただ普通にグラウンドを見ていたが、H君はしみじみと言う。

「こうして負けるのを見るとやっぱりかわいそうやな。」

 …。高校球児に三年間はあまりに短く、そして、この一戦でその夏が終わるかと思えば、三年間はあまりにも長い。

「うん、かわいそうやな…。」

甲子園はサイレンを鳴らし、次の試合へといそいそと時を移していった。

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