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浜田 |
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−ああ栄冠は君にも輝く〜全ての球児と応援団に大拍手〜
私は応援好きである。何処の学校がどういう応援歌を唄っているか、というマニアではないが、とにかく野球だけでなく、応援も見るのが大好きだ。特に応援団が必死になって応援しているようなチームというのは、愛されている気がして、大好きなのだ。去年の横浜PL戦は応援もなかなかにすばらしかったし、倉敷商の桃太郎サンバなんかは、今思い出してもなかなかに楽しい。平塚学園のラッキーセブンはすばらしかったし、関大一の白い超特大応援団もなかなか、そして郡山高校の郡高音頭なんぞもなかなか良かった。智弁学園、智弁和歌山のあのなんとも言えない雅な応援歌と、アフリカンシンフォニーなど、聴いただけで背筋がゾクッとするぐらい気持ちが良い。
そういう意味では、このなんとも渋いカードのみどころは、何といっても水戸商の応援だ。水戸商の試合は春も見たが、その後選抜で準優勝するチームの試合の中で一番心に残ったのは、主戦三橋のなんともいえないアンダースローではなく、鉄壁の外野守備でもなく、その応援だった。水商サンバがまた聞ける。そんなこんなで、意外とこの試合も楽しみにしていた私である。
鉄壁の外野守備を見せる水戸商の強さ。前の観戦記にも書いたが、右打者のときレフトが前進する独特の守備位置。これを支えているのが、しっかりした打球判断と、練習である。僕はその秘密が知りたくてノックをじっくり見ていたが、監督さんがまた面白いノックをするのだ。外野守備の野手と野手のど真ん中にライナーの打球を飛ばす。頭越えの打球をガンガン打つ。こうやって生きた打球を追う事で、プロ並の外野守備を見せる事ができるらしい。さすがに智弁和歌山伝統の背走キャッチはしないが、きっちり体を斜めにして、落下地点近くで電車バックする。こうして頭越えの打球を難なく、簡単そうに取るのだ。水戸商の選抜準Vそして、藤代、常総学院とレベルの高かった茨城の春夏連続出場、というその実績は伊達ではないらしい。
驚いたのはノックの最中、水戸商の監督さんの打球が、いきなりライン際を襲い、外野手が追いつきそうになった瞬間、外野手が追うのをやめた事だ。何だろう、と思ったら、ボールがアルプススタンドにスタンドインしていた。ホームランである。
「おい、あの監督、超高校級のスラッガーやで。」
とはしゃぐ僕。いい中年の監督さんつかまえて「超高校級」とは我ながらひどいが、飛びが良くないノックバットでここまでの打球を飛ばすのもすごい。
…と思ったら、打球音がやたらと良い。金属バットで打ってらっしゃった。これは実践守備にはもってこいだ。
しかし、まだまだ悔いが残る県岐阜商と智弁学園の戦い。僕らはまだブツブツ、二人揃って
「もう森川監督は信じん!」
と騒いでいる。僕らは比較的静かに野球を見る方なので、珍しいが、さぞかし周りの人は迷惑だったろう。
「今日は、なんか、面白くねえよな。」
とH君。確かに。高校野球はワンサイドゲームでも面白い。と言っても面白さにはやはり段階がある。僕らは根っからの野球好きなので、試合が始まると野球ばっかり見ている。もちろんH君、今日も目を皿にしてみている。この日の試合は、確かにそれはそれで面白いのだが、やはり贔屓チームばかりが負けると試合後の余韻が違う。特に今日の県岐阜商の負け方はひどい。
「あんなところでスチール…」
試合開始直前までブツブツ言う僕ら。そりゃあそうだ。僕らは野球好きだが、贔屓チームになるとただの野球よりも贔屓チームの方が好きになって、それで気分が決定してしまう。例えば中日ファンである僕らが、中日が負けるとたとえ素晴らしい試合でも愚痴を言う。今日の僕らは、まさにそれだ。地元チームの、ひどい負け方をいつまでも引きずる。
そうこうしているうちにサイレンが鳴り出した。試合開始だ。
「こういう試合が、意外と面白かったりするんだよな。」
とぼそりとH君。そうそう。そろそろ野球好きに戻らなければいけない。なんといっても水戸商と浜田だ。
僕にとっては、浜田と言えば和田君だ。98年夏、中国地方屈指の右腕、和田を擁する浜田は、新潟代表の新発田農業を破り、ベスト16入り。帝京と対戦、現日本ハムの森本擁する帝京を切れのいいカーブとストレートで翻弄し、3−2で破りベスト8。そして準々決勝で豊田大谷と対戦、粘りの野球で散々に苦しめたが、惜しくも敗退した。99年春のセンバツで、98年夏にもベンチ入りした右腕、浅野をエースに強力打線を擁して緒戦を突破、二回戦、センバツ優勝の沖縄尚学と対戦し、5−3の好ゲームで敗れている。
和田、浅野と続いたエースは、なかなかにさわやか。だが、浜田マウンド、浅野の姿が無い。僕らは、目をパチクリさせた。
「背番号が、1じゃねえな。」
「怪我かな。」
「練習にもおらんかったし、なあ。」
事実、背番号1番浅野君は、島根大会で試合中、投球途中に疲労骨折、浜田は主戦を欠きながらの試合となった。正直言ってさほど浜田に注目していなかった僕はその記事を見逃したまま試合を見たが、センバツ準優勝校の水戸商相手にエースを登板させないような変なチームはない。すぐに以上を察した。一方の水戸商、こちらも二塁手が大会直前に骨折するなど、あまりチーム状態は良くない。
水戸商は相変わらず応援がよろしいが、まだ火が点いていない。一回表、無得点。
水戸商マウンド、登板するのはご存知ノンステップアンダーハンド、曲者(くせもの)中の曲者、センバツ準優勝右腕、三橋君だ。相変わらずなんだか良く分からないフォームで、淡々とボールを投げ込む。一回表、浜田は早くも三橋をとらえる。ヒット、送りバント、三振で二死二塁。
それにしても、浜田。応援が素晴らしい、素晴らしすぎる。対して人数もいないのだが、あんなにノリの良いルパン三世は無い。
「なんか、ええなあ、あの応援。」
と僕はなんか応援席に目を奪われる。H君は
「何か君が好きそうな感じやな、このチームは」
とのコメント。そう、僕は必死な応援をもらうチームというのが、愛されていそうで、どうにも好きなのだ。さすがに漁師の街、ルパン三世のテーマに独特のフシのついた声の応援で、アルプス前列、必死になって応援している。こっちまで一緒になって応援したくなってしまうような、そりゃもうすばらしい応援だ。
打席には、注目のバッター四番鍛冶畑。声援を一身に受けて、鉄壁の外野守備陣を誇る水戸商のセンターを越え、大二塁打。浜田一点先制。続く5番焼杉、またも外野の頭を大きく越える二塁打、続いて、二年生ながらマウンドを守る6番桑野、センター前タイムリー、死球挟んで続く西田がタイムリー内野安打。応援の勢いそのままに、浜田高校、お見事、電光石火の四点先取。
「ほっほー。」
まさか水戸商がこんな崩れ方をするとは思えなかったが、それ以上に浜田の攻撃力と応援力には恐れ入った。試合開始前の水戸商ファンとは打って変わっていきなり急造浜田ファンの僕。
「ええやんええやん。」
とすごく嬉しそうな僕。
「これ、結構いい試合になりそうやな。」
とワンサイドの予想もせず、落ち着いて展望を語るH君。その後、試合は両者走者を出しながらも得点ならず、一波乱ありそうな試合展開で5回表。水戸商、ヒットと四球、そして盗塁で一死二、三塁。
今度は水戸商チャンスパターンお馴染み、一塁側アルプススタンドで水商サンバ始まる。笛とバンドの伴奏で、サンバのリズムを刻み、野球部員がサンバを踊り、みんな一緒に「す・い・しょ・おー」と叫ぶ、これまた楽しい応援で、水戸商名物である。これが始まると今度は水戸商が止まらない。武田、助川の連続ツーベースであっという間に三点返し、反撃開始。
今度は黙っていない浜田の三塁側アルプス、バテもせずに応援を繰り出せば、イキの良い応援に乗って5番焼杉のレフトスタンドへの大ホームランで突き放す。
「面白いやん。」
たまらない試合展開で6回表。しかし、ついに浜田高校はここで力尽きる。エースの疲労骨折により、二年生投手、桑野がつかまり始めたのである。浜田はすかさず継投、一年生投手木村をマウンドに送るが、手負いのチームに負けるほど、水戸商は甘いチームではなかった(と言っても水戸商も手負いなのだが)。安打、四球、犠打でチャンスを作ると、流れてくるのは水商サンバ。こうなってくるとお得意の集中打が飛び出す。7番三橋タイムリーツーベース。
「おーさすが水商サンバ!」
同点。
8番外山センター前。
「すごいな」
9番武田左中間タイムリーツーベース。
「すげえすげえ」
二点勝ち越し。水商サンバは止まらない。こちらも電光石火の早業であっというまに逆転に成功。一度マウンドをおり、三塁守備に就いた桑野をもう一度引きずり出す。猛攻は止まらず、ついに水商応援団、疲れたか、それとも礼儀を知ってか、サンバは鳴り止んだが、攻撃はまだ止まらない。一挙六得点。
次の回からは毎回得点の猛攻。さわやかな応援対決は、さすがにエースを欠いた浜田が先に力尽き、ワンサイドゲームになってしまった。
センバツ準優勝校、水戸商が、実力を出しきって完勝。
僕らは浜田背番号一番、浅野君の負傷をダイエー甲子園店の書店で確認し、甲子園を去った。
その日の夜の熱闘甲子園。ホテルのテレビで、僕らは骨折しながらもベンチ入りしたエース浅野君が、伝令として闘う姿を見た。さわやか応援対決は、やはりさわやかな浅野君の笑顔で彩られた。ワンサイドゲームでも、浜田の力いっぱいの力戦と、スタンドの熱い応援が、僕らにはさわやかな印象を残したのだ。