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桐蔭学園 |
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−完全燃焼の敦賀相手に桐蔭学園が準毎回得点試合
優勝候補の誉れも高き桐蔭学園、福井大会を快進撃で破ってきた勢い系の古豪敦賀と激突。県立岐阜商業の試合を見に来ていた僕でも、福井県大会を見ている以上はこれで心踊らないはずはない。横浜、横浜商、横浜隼人、桐蔭学園、桐光学園、横浜商工、横浜商大、東海大相模と前評判の高かった9つもある優勝候補に、伏兵桜丘をまじえた大混戦を、圧倒的な実力で勝ち上がった桐蔭学園、組み合わせに恵まれながらも奇跡的なサヨナラ勝ちを繰り返し、最後優勝候補福井商に追いつかれながらも首の皮一枚残し、とてつもないバックホームなど冷や汗タラタラで守り切り甲子園にやってきたミラクル敦賀。対照的な二チームのどちらに女神が微笑み、そしてどちらに魔物が噛み付くのか。
「敦賀、頑張ったれ。桐蔭はなんつったって横浜に10−5で勝っとるんやから5点差以内やったらおまえら横浜以上やぞ。」
と応援しながらも勝てるわけ無いと踏んでいるのは僕。対して
「いや、実はオレも敦賀には期待しとるんやて、なんかすごくイキの良いチームらしいやんか」
とどこで知ったかH君。そう言われると急造敦賀ファンの僕も悪い気はしない。
「いやあ、イキはええよ、ホントに。サヨナラ二回に、最後もほとんど負けたような状態で勝っとるんやで勢い最高。もうチームの奴等全部名前おぼえてまったもん。」
と美濃弁丸出しで目尻を下げる僕。敦賀を見ていると何だか嬉しくなるのだ。敦賀ナインの説明をここで僕はH君に始めるのだが、H君もうなずきうなずきよく聞いてくれた。せっかくだからここでも敦賀ナインをおさらいしておこう。
1番 ライト 八王(やお) 俊足好打のイキの良い二年。特筆すべきは超高校級の外野守備と、強肩。
2番 ショート 古川 打撃守備ともに一生懸命な二年。左バッター。
3番 センター 桔梗 外野唯一の三年生。好守ともにチームの中心選手。左バッター。
4番 ファースト 中島 気持ち悪いぐらいの勝負強さが光る頼れる主砲、三年生。
5番 セカンド 林 若いチームを引っ張る大人のキャプテン。守備、打撃、走塁全てがチームのお手本。左バッター。
6番 キャッチャー 窪園 打撃守備ともにしぶとく成長著しい二年生捕手。
7番 サード 品川 福井県大会中はラッキーボーイ的にうちまくった生き生き二年。
8番 ピッチャー 土屋 シュート回転するボールと思い切り良い投球が身上の当たって砕けろな二年生。
9番 レフト 松永 強肩俊足、そして天下一品のバントの技術。素質あふれる名選手。左バッター。
そしてベンチにエース伊原。
レギュラー9人中の6人までが二年生、勢いと成長力が売り物だ。
ノックを見る限りは動きのいい敦賀だが、やはり魔物はこちらを襲ってきた。福井大会を勝ち上がった時の大盛り上がりの大応援団は、甲子園にやってきて、「連れてこられた組」と、「熱心な応援団組」に二極分化、いまいちそろわない中途半端な応援団となってしまっていた。敦賀の応援団が大好きだった僕は大失望である。福井のスタンドにいたときは応援がそりゃもう全体で一致していたため、雰囲気だけでたいして興味がなさそうな人たちまで一生懸命応援していた。ちょっとでもどっちらけムードがあると「かっこわりいからやめようや」といった感じで応援なんかしない年頃の彼らだ。この二極分化は、応援のレベルを大きく下げてしまった。
何と言っても桐蔭学園サウスポー松本祥、左腕旋風吹き荒れる99年夏の甲子園でも、テンポのよさとスピードボールは屈指である。破るには気後れしてはいけないのだ。しかしながら二極分化応援団では勢いを付けるには至らない。なぜなら相手は桐蔭学園である。全校をきっちりまとめることができる強力な応援団を持っている。ガクランはちまき扇子持ち、これぞ応援団という姿でいっぱいに詰まったアルプススタンドをまとめ、
「トーイントーイン」
さけんでいる。見事な応援だ。見事な応援過ぎて野球を見ているのかどうかというのは甚だ疑問だが、ともかく凄い応援だ。いや、確実に野球なんか見てない(とんちんかんなところで声援が上がったり、応援団のパフォーマンスで笑いが起きたり)が、大声援だけは飛んでくる。全国経験のない敦賀高校に、ここで気後れするなというのは無理な話である。
敦賀はあっさり一回表三者凡退、続いて一回裏の攻撃となる。
桐蔭応援団は、「桐蔭桐蔭!」と叫んで選手の名前なんぞ呼ばないというイマイチ誠意の伝わってこない応援だが、敦賀のピッチャー土屋君を気後れさすには充分な威力を持っていた。さわやか暴力投手土屋君は、ナチュラルに変化してくるシュートボールでインコースを突いてくるという強気なピッチングが身上だが、外野から見ても、危険なボールが一つもない。おそらくは上原監督が選手権甲子園大会前に危険球修正をしたのかと思われる。このシュート回転の修正は長期的に見れば球威の向上のためにも絶対必要であるが、短期的には、シュート回転の凶悪なボールが治ってしまうのは弊害の方が多いので、おそらくは甲子園出場前の短期調整期間の場合、インコース攻めをやめただけにとどまっているだろう。にもかかわらず、アウトコースにシュートもしなければすっぽ抜けることもない何の変哲もないストレートが飛んでいく。これは何といっても腕が振れていない証拠であり、慎重に行ってしまっているということを示しているのだ。
いわゆる「甲子園独特の雰囲気」を現出した桐蔭学園応援団の功績はなかなかに大きい。おかげで土屋くんの腕は振れていない。ただでさえ微妙なコントロールがつかない土屋くんだが、腕が振れていなければますますボールを見られてしまう。二死から余分なフォアボール、続いてランナー八木君がスチールして、勢いチーム敦賀の出鼻をくじき、四番由田がきっちりここでタイムリー。鮮やかに一点奪った桐蔭がペースをつかむ。
敦賀の方は頼りになる四番中島が内野安打で出るが、牽制死と波にのれない。
三回には投手土屋のツーベース(走塁死)の後、打者松永。
「こいつは絶対バントするぞ、しかもセフティーで。」
と僕は何度も内野安打を打っている松永くんを指差していう。その直後松永くん、ここしかないというところにポトリとボールを転がし、見事に硬い桐蔭内野守備陣を突破。
「すげえやん、敦賀。」
とH君。そう、実際のところなかなか劇場じみた所があるスゴイチームのはずなのだ。しかし、ここで打てないのが勢い、そして流れなのだ。松本祥くん、まったくテンポを変えることなく淡々と投げ込み、一番八王投ゴロ、続いて古川桔梗連続三振。見事。そしてここで完全にゲームをモノにし、三回表にして早くも勝負あり。桐蔭学園、失策を絡めながらも点を許さず。
「これは、あれやな。追い込んでもここで点が取れんかった分、届かんわ。」
「そんな感じやな。」
「ま、野球やから何がおこるかわからんけども…。」
何がおこるかわからないからおもしろいのが野球ではある。が、応援が期待できない上に桐蔭学園の応援は個人的に好きではないがすばらしいと来ている。勢い型チームが勢いをなくしてしまっては何の怖さもない。一点差でも、勝負アリだ。
さすが強豪。さすが名門。ピンチの後にチャンス有り。三回裏、制球に苦しむ土屋君から好球必打。四球の片倉君が八木君ヒット。これを敦賀左翼松永君の脅威の捕殺で殺されながらも、四球の連発に乗じ、桐蔭7番打者中沢君がタイムリー、なおも満塁。ここでこともあろうにエース松本が走者一掃のツーベース。四回裏には土屋君が二死取りながら、三番八木君の三塁打、続いて暴投で失点を喫し、土屋君無念の三回降板。桐蔭学園前に地獄絵図の始まりか。
しかししかし。代わりにマウンドに立った伊原君は、コントロールの悪さもそこそこに、必死にふんばる粘りの投球。調子に乗るかと思われた桐蔭のソツのない攻撃を受けながら、5回裏に古川君の失策を受けながらも、自ら暴投しながらも、1点づつの最小失点で何とか切り抜ける。この必死の野球が敦賀の持ち味である。拙攻を繰り返しながらも何度かチャンスを作る敦賀高校。6回を終わって8-0のワンサイドゲームだが、不思議とおもしろいのだ。
「敦賀、頑張るな。」
とH君。見る人には伝わる。必死の敦賀の攻撃は、スチールなど、手を抜くことを知らない桐蔭の野球にもついに穴をあける。7回、窪園、品川の連続三振の後、力投の伊原君が先輩の意地でなんとか二塁打。ここでミスターバントヒット松永君登場。セフティーバント失敗してフルスイングしたボールが、もうどうしようもない当たりのボテボテの内野ゴロ。これが三塁手と投手、捕手の間を転がり、打者松永が走りに走って内野安打。一三塁として一番八王君が、ライト前。一点追加して、八王君がさらにスチール。二死一二塁で、打者古川が三振。しかしながら、やっと火が点いてきた、火の玉敦賀打線だ。
7回裏、桐蔭学園はなおも攻撃の手を揺る馬頭無死一二塁から送って、さらに一番渡辺、そして二塁走者木野の技有り、脅威のツーランスクイズ。強い。
「コールドか。」
「コールドやな。」
僕らは敦賀の健闘を称えながらも、桐蔭の強さをこう表現した。エース松本祥を温存し、押さえのエース松本淳を投入する横綱相撲。しかし、甲子園にはコールドが無い。敦賀は乗り切れない松本淳を攻め、8回になお一点返す。8回裏にはレフト松永のこの日二度目のものすごい捕殺が飛び出し、投手変わって新しくレフトに入ったエース伊原君が、レフトから大暴投する。この辺りは必死で、手を抜いていない証拠だ。まだまだ敦賀の夏は終わらない。
その必死さは、ついに報われる。敦賀の9回先頭バッターは、二度の捕殺で魅せ、二本の内野安打を放っている松永。松永君は三塁内野安打、捕手内野安打に続き、何と9回にドラッグバントによる一塁内野安打を達成し、内野安打三本という珍記録を打ち立てて大暴れ。外野二年生コンビ、松永君と同じく強肩俊足の一番八王君が二塁へ内野安打で連続内野安打と続く。
「元気いいな、あれら。」
そう!元気がいいのが売りなのだ!行け!敦賀!一方、押さえのエースながら、甲子園に上がってしまっている松本淳くんは、ちょうど元気のよい敦賀二年生部隊に翻弄され、続く遊撃古川君に四球。更に続く代打東条君に、危ない危ない投手ゴロ。これで一失点。さあ、浮き足立ってきた。
「チャンスチャンス、横浜は5点しかとれんかったんやで、それ以上に取ったれ!意地見せたれ!」
僕らの応援にも熱が入る。四番頼れる男中島は、今日三本目のヒットをライト前。もう一点。これで11-3。もうあと3点。横浜を超えろ!
打席にキャプテン林正太郎、二打席連続タイムリー、これで11-4。さらに走者1、二塁。続く窪園は三振に倒れるが、続く品川はラッキーボーイだ。制球がそろわない松本淳のボールを思い切りひっぱたいて2点タイムリーツーベース。これでついに11-6!
「やったで!あいつら」
「ええなあ、平塚学園みたいやなぁ。あれぐらい応援があったら、まだわからんのやけど」
H君が言うとおり、確かに応援が足りない。福井県大会では、すごい応援で奇跡的な逆転勝利を続けているだけに、そして去年、九州学院と日南学園を散々苦しめた平塚学園に雰囲気が似ているだけに実に惜しい。打者は背番号一番、エース松永だが、ついに力尽き、ショートゴロに倒れた。やはり、序盤の拙攻が痛かった。
しかし、横浜は超えた。優勝候補の一角の桐蔭学園をあれだけ苦しめたのだから、これでもまあ良かったのかもしれない。粘りの敦賀の伝統を作った。そして何より二年生中心のチーム、来年に期待が持てる。
試合後に、くやしい先発の背番号10番、土屋が言ったそうだ。
「来年またここに来れなかったら、ウソですよ。」
桔梗、伊原、中島、林キャプテン、彼らのためにも、来年は負けられない。
のだが…。土屋君の夢はなかなかに難しい。
2000年の夏、福井は今までに類を見ないすさまじいレベルの戦いが予想される。土屋窪園のバッテリーを含む、99夏甲子園レギュラー六人を擁する敦賀はもちろん、99年春経験者の、吉田、山岸という二人の大型140キロ級投手、言ってみれば静岡の高木、市川に匹敵する左右二枚看板を誇る、「脅威の守備力」福井商、そして怪物バッテリー、内海-李を擁し、その他にも仲澤など中心選手が充実する敦賀気比、そこに福井、北陸、藤島など有望な選手がそろった大に大がつく大混戦が予想される。
来年も、福井からは目が離せない。