選手権福井大会決勝

敦賀 6−5 福井商


1

2

3

4

5

6

7

8

9

スコア

敦賀

0

2

0

0

0

1

1

2

0

6

福井商

0

0

1

0

0

2

0

2

0

5

−ミラクル敦賀が栄光の夏切符

 

 福井県大会の決勝は、シード校同士の対決である。三年連続の敦賀気比の夢は破れ、大本命に躍り出たのは、何といっても春のセンバツに出場した福井商。敦賀気比を破った北陸との試合に勝って、堂々の決勝進出。春は怪我で主力を欠きながらも夏にはしっかり仕上げてきた。守備は堅く、粘り強く投手力も安定し豊富。

 対するは若狭、鯖江と死闘を繰り広げながらも二試合連続してサヨナラ勝ちしている敦賀。敦賀高校は古豪だが、それは名ばかりで、実は全然名門らしくない野球をする。19年ぶり17度目の甲子園を目指して勝負。

 

 僕は午前中に唯一のテストがたまたまこの日と重なってぶつくさ言っていた。しゃーねえからビデオにでも撮っとくか、と思いながら新聞を見る。どうせ福井商業が勝つだろうなあ、と思いながらも敦賀の勢いがまだ見たいきがしていて、気になってしょうがない。ビデオをセットする。

「お?♪」

 そうなのだ。一体何を勘違いしていたのか知らないが試合開始はどうやら午後からであって、十時からではない。考えてみれば当たり前の話である。散々苦戦しながらもテストを仕上げ、僕は福井県営球場へ向かう。しばらく休憩していたので時計はすでに1時をまわっている。ラジオを付けながら車を走らせる。

「お…」

 勘違い。2時からだと思いこんでいた決勝戦の放送は既に始まっていた。考えてみれば当たり前の話である。せっかく試合開始から見ようと思ったのに、休憩なんかするんじゃなかったと思いながら走る。とりあえずラジオには間に合ったので気を取り直して聞く。敦賀高校の先行で試合は始まった。僕の予想は外れて、福井商業の先発は背番号10番の山岸くんではなく、1番の吉田くんだった。福井商業の投手は四人で、エースは腰痛持ちの左腕吉田くん、春エースだったが、骨折して出遅れ、背番号10番を付ける右の本格派山岸くん、この二人が全国区の実力を持ちながらまだ二年生。そして、怪我持ちの二人を支える形で出てきたのが春まで外野手だった刀祢くんで、これが左腕。あと一年生の金沢くんという投手がいるらしいが見たことが無い。こういう時ラジオの情報は頼りになる。

 吉田くんはあっさりと三人で抑えた。僕は福井商業の二年生二人の将来を期待しているため、車の中で拍手。ひとりで拍手していてもむなしいが、まぁいい。ともかく、あまりはやく抑えてくれるな吉田くん。こっちはなるべくたくさんの回を見たい。

 一方の敦賀高校は二年生、背番号10番の土屋くんの先発。エースは背番号一番の伊原くんだと思っていたら違うらしい。実はエース級は土屋くんのほうで、193cmの長身からシュート回転するボールを投げ込むとラジオで言っている。前の日の準決勝で見た時もシュートしまくっていたが、ラジオによれば今日も相変わらずのようだ。頑張れ、土屋くん。

 ラジオによれば敦賀高校は何とレギュラーの大半が二年生らしい。びっくりしながら車を運転、びっくりついでに敦賀エラー。しかしなんとか抑える。しっかりしてくれ敦賀、着く前に試合が決まったら大変だ。車はやっと松岡町を出て福井市に入る。8号線を南下中に2回表。交差点を曲がろうかという所で、ラジオによれば「エラーのランプが点いたあとにHのランプが」という内野安打をはなって一死一塁。僕は前の日の試合を見てにわか敦賀ファンなので手をたたいて喜ぶ。そして、何と福井商業相手に二盗を敢行して一気にチャンスとし、ここで敦賀の品川くんが、三塁打。車の中で叫ぶ僕。品川くん、昨日もサヨナラ打を打って今日は先制打。すっかり僕のお気に入りだ。続いて誰か(土屋くんらしい)がタイムリー。車の中でまた手をたたく僕。交差点を曲がっている最中に敦賀のランナーが二点目の生還をする。あとは投手戦に持ち込めば勝てるぞ、頑張れ、敦賀。

 福井商の攻撃は、ランナーを出しながら無得点。試合はどうやら敦賀ペース。三回表途中にやっと運動公園に着く。駐車を済ませ走って球場へ。 

「一枚」

「お…ですか?」

「あぁ?」

「…ですか?」

「なんやって?」

「いいや、何でもないっす。」

 切符を買うのに一苦労。あとから頭を整理してみたら大人ですか、と聞いていたっぽい。失礼な。22やで、俺ァ。18以下にみえるんか。ともかくもスタンドへ、土屋くんがピンチになっている。なんか知らんけどランナー一、二塁。席についた瞬間にショートエラーで満塁。なんや、早くも決着がつくんか?と、思ったら。

 北野監督、なぜだか4番の米丸くんにバントのサイン。満塁で、四番にスクイズをさせ、しかも失敗してファール三振。何をやっとるんだ福井商。二死、福井商業が自分の野球をできてない、点は入らないかな、と思っていたら、敦賀が見事に自分の野球をやってのける。満塁で四球押し出し。何をやっとるんだ。デットボールの多い土屋くん、持ち味を発揮して1点献上。で、ノッてしまった福井商業がたたみこむか、と思ったら、刀祢くん三振。むー。

 

 

 

 バックネット裏「カメラマンが邪魔席」から、三塁側よりバックネット裏二階席へ移動する僕。ここなら試合全体が見える。で、敦賀よりのスタンドに座ってみた。敦賀の応援は、応援団もなかなか多数、地元ファンはさすがに福井商の応援ばかりのようだが、バックネット裏では明らかに数に劣る敦賀応援のおっさんの

「よっしゃァ」

が、大声で所々から。当然バックネット裏二階席でも敦賀よりに座っているので敦賀の応援が多い。熱い敦賀。通称敦高(とんこー)。なんだか燃えろ燃えろ、燃えろとんこー、と福井特有の炎上応援でトンコートンコー連呼する。なんだか敦煌みたいで変な気持ちになるのは僕だけではあるまい。そんな変な気持ちに僕が乗せられてしまっている分、敦賀ペースと見る。三塁側敦賀のスタンドは昨日はそこそこの数だった応援団がかなり増えてレベルの高いブラスバンド部と一緒になって応援している。これがまた懸命で楽しそう。爽やかな応援。おそらくは福井商にとって見ては暴力的な形で流れを持っていかれる応援。結構応援ってのは流れを左右する。敦賀のスタンドを見ていると、なんとなく敦賀が勝ちそうな気がしてきた。しかし、実力差はあるようで、僕の友達はみんな福井商が勝つといっていた。わかんないと思うけどなァ。そう言いながら僕は敦賀を応援しながら、敦賀が勝つ、とは言えなかった。やっぱり福井商業はそれでも強いのだ。対する敦賀は未完成のチーム。福井のチームにしては守備が良くない(福井県営球場自体イレギュラーバウンドがかなり多いが)し、結構無駄な残塁もする。

 

 

 

 四回表には林正太郎主将が絶妙のディレードスチールを見せるが、これを福井商業はあっさり簡単そうにアウトにする。ディレードスチールは結構あわてるものなんだけど、名門福井商はむしろ、刺せてラッキー、みたいな感じで押さえる。品川くんが当たっているだけにこのアウトは痛い。

 

 

 痛いついでの四回裏。またも土屋くんがデットボールを与える。土屋くんはコントロールがいい投手で、ほとんど四球は出さないが、シュート回転するボールが中指方向から抜けると、高めにシュートする非常に危ないボールになる。シュートするのが持ち味かもしれないが、ストレートの威力は落ちるし、危ないからやめたほうがいい。上島監督も、優しい人のようだからその辺は甲子園までに何とかしてくれると信じよう。もっとも、コントロールは抜群に良いから力まなければ顔付近を襲うことは間違いなくないが。

 落ち着け、土屋。こっちがヒヤヒヤしてくる。内野ゴロで進んで、福井商のセカンド藤井君が、ショートゴロを打つ。これをトンコー遊撃古川くん三塁に送る。どう見ても空タッチに見えたが判定はアウト。走者もあっさり帰っていったから、ちゃんとかすったのかもしれないが、タッチした本人はかなり焦ってタッチし直していたのに。これも流れか?。なんやかんやでバタバタと押さえて敦賀リード。

 しかし、こういう試合展開だと福井商にペースを持っていかれそうだが…。5回も両チーム無得点。なんだか福井商ペース。でも勝っているとんこー。5回裏の福商4番米丸くんの当たりなんかすさまじいライナーだったが、センター真っ正面だった。当たりまくっている伊原くんにつなげない福商、ペースは握っているようで実はそうでもないのかもしれない。爽やか応援、仲良し野球、そして暴力的なまでの流れをつかみとる勢い応援に、ほんまもんの暴力に近いコントロールの良いデットボール投手(しかも全く意図していない)。爽やか暴力野球、とんこー。福井商ペースながら流れを握っているのは実は敦賀なのか?

 

 

 

 で、試合がまた動き出す六回。全く読めないとんこー打線は、流れを逸したとはずなのに、良いのか悪いのか良く分からない(持ち味か?)吉田くんをとらえてセンター前、二番古川バントして名前のかっこいい桔梗(ききょう)くんがセンター前。一点加える。応援は何といっても敦賀が上である。一点とったらみんなが嬉しくなって大騒ぎ。ブラスバンドも笑顔の指揮者がまたカッコよくまとめている。対する福井商業応援席は野球部とチアガール、それに加えて一部学生がブラバンに合わせて踊り出すものの、スズメの涙ほど見に来ている福井商業一般生徒は、一塁側にいるくせに、ぼんやり見ている。ブラスバンドも暑そうだ。暑いんちゃうで、熱いんや。応援しよーや、なァ。

 

 こうしてノッてしまった敦賀だが、この流れをあっさり引き戻す福井商。北陸戦でスクイズを決め、さらにエラーで出塁してホームを踏む、というラッキーボーイ、この試合でも当たりに当たっている背番号11番伊原くん(敦賀にもいるが、これは福井商業の伊原くん)がここでバッターボックス。さすがにラッキーボーイ。痛烈な2塁打を放ち、バントで進んで、内野安打の間に生還。試合が展開全く読めない!これは面白い。

ここで、よりによってここで、「力んだらデットボール」の土屋くんが、藤井くんに頭部死球。

 痛い!藤井くんが一塁に歩き出して足から崩れる。軽い脳震盪のようだ。土屋くん本当にすまなさそうに帽子を取ってあやまる。一塁中島くんも例によって謝る。これさえなければ良い投手なのに、これは危ない。

 頭部死球は二試合連続で、幸い二試合ともヘルメットが割れているために、頭部に直接衝撃は行くことなく大事には至っていない。頭部死球は全体的に中指からすっぽ抜けることが多く、シュート回転しているため、軌道を読み間違えて踏み込んだ打者にぶつかるという最悪のボールで、このボールはどうしても避けようが無い。シュート回転している、ということが投げた瞬間にわかれば良いのだが、それがわかるだけの視力があればその彼の通産本塁打数はすさまじい数になるだろう。天才でも避けれないボール、天然の暴力的な逆スライダー。土屋くんにはさほどの罪はないが、登板させ続けるのはどうだろうか、と思う。いくら故意ではなくても、危ない。せめて修正を。

 さて、試合のほう。六回裏の福井商の猛攻に加えて、頭部死球を与え、崩れる要因が揃いまくっている土屋くんが落ち込まないようにマウンドに集まる敦賀ナイン(外野まで集まってきた)伝令含めて、10人でマウンド上でぴょんと跳ねる。見るからに仲が良さそうなとんこーナイン。タイムがかかるたびに外野でさえも声とか掛け合っている当たり、打ち合わせができてないのかと勘ぐりたくなるような未完成さ。魅力的だ。そう、元々はコントロールのいい投手、力みさえしなければ自滅もなかろう。この辺が平安の香川君と違うところだ。何といってもさわやか暴力野球、無邪気さ炸裂。

 対して老獪な野球を見せる福井商は一番バッターの好打者俊足の永田君の打球、敦賀ショート古川君がなんとかかんとか押えるもののタイムリー内野安打。内野安打で点を重ねる福井商だが、ここで福井商の二番、曲者(くせもの)の八尾君がゴロではなくて打ち上げて、センターフライ。この回は何とか同点に抑える。このままでは福商が勝ちそうだ。残念ながら。

 

 

 そして春の主戦、怪我明けながら山岸君が登場。マウンドで伸びのいいストレートを投げ込む。しかし制球がどうもよろしくないらしい。そこを見逃さない敦賀、フォアボールのランナーを当たっている品川君が送り、土屋君のヒットで一三塁、ここで俊足松永君がバントで揺さぶっておいてタイムリー。お祭り騒ぎのとんこースタンド。福井商の内野陣はホームに送らず三塁送球し、これを刺して何とか被害を最小限で止める。山岸君が捕らえられている。山岸君ファンの僕としては、複雑である。頑張れ山岸。

 流れをつかめない福井商業の裏の攻撃はバントの構えからヒッティングに切り替えた主砲米丸君の痛烈なセンター前ヒットがあったが、こういう時に限って大当たりの伊原君にヒットが出ない。流れは敦賀だ。福井商の「点を取ったらリズムに合わせて一人の選手がスタンドで傘を振り回す」応援は出ずじまいだ。そうなると流れに乗れない。案外スタンドの空気は、今のグラウンドの空気に近い。7回、再び敦賀が勢いで行く。

 

 

 

 そんなに山岸君は打たれるような変な球を投げていないが、配球がワンパターンなのかもしれない。8回、二死から頼りになる四番の中島君が右中間を真っ二つに破る大三塁打。福井商じゃなかったらランニングホームランになっていたかも。続いてキャプテン林正太郎君に四球。続いてなんと盗塁。山岸君、米丸君の素早い送球をカットして三塁を向くも、ちょろちょろ動いていただけの三塁ランナーはさっと戻ってまんまと2,3塁の大チャンスゲットのとんこー。大盛り上がりのとんこースタンド。まさか福井商業相手にここまで機動力を使うとは恐れ入る。山岸君はどうしたのか、変化球をあまり投げないで打たれている。そこに敦賀の大応援に加えて右打を始めたとんこー打線。当然次の結果は6番「オーバードライブ」(応援歌)窪園くんの右中間二塁打で三点差と突き放す。そこへ続いてラッキーボーイの品川君がレフト前にヒットを放ち、なおも一三塁。福井商たまらずタイムをとる。

 投手交代もありかと思ったが、山岸続投。福井商ナインは二年生の山岸の肩をたたいて支える。いいなあ、と思ってみていたら敦賀の方も三塁ベースコーチャー(おそらく三年生)が次の打席に立つ山岸君と同じく二年の土屋君を呼んで背中をたたいて、耳打ち。こっちはこっちで仲がよさそうで暖かい。いいなぁ、高校野球。

 で、どっちの励ましが効くのかな、と思ってみていたら山岸君がふんばって土屋君はスイングアウト。そうでなければ福井商業ではない。まだまだ勝負はこれからだ。

 

 

 8回裏。応援もいい加減に悲壮感を帯びてきた福井商。それでもぼんやり見ている生徒が気になるが、野球部員達は必死である。山崎センター前、山岸に変わる代打東のライト前で、一三塁。さらに東に代走が出て筆島。土屋君の方は明らかにコントロールが甘くなっている。コントロールのいい投手だが、さすがに連投には耐えられないか。

 そして9番藤井君がスクイズ!山崎生還し筆島が二進。藤井君は頭部死球を受けているのに、さすがに福井商。怖がらずにスクイズを決めるところはさすがだ。福井商応援団、傘を持って大騒ぎ。ちょうどサッカーの応援のように

「おー、ふくっしょー、ふくっしょーふくっしょーふくっしょー」

へイへイへイへイへイへイ!!

大騒ぎ福商スタンド、そりゃあうれしかろう。そしてベンチも燃える闘気が湧き出て頼もしい。

一方守る敦賀の方も、落ち着いて裁いて一死取るのは立派だ。一番永田倒れて、バッターは曲者八尾くん。一つのストライク、一つのアウトに敦賀側が沸き、一つのボールに福井商が沸き、ファールボールで球場全体からため息が漏れる緊迫した展開、そんな時にはやはり曲者が空気を切り裂く。インコースの玉を金属バットヒッティングで右に持っていった八尾君のライト前ヒット、筆島生還。

 ついに大盛り上がりの福井商業スタンド、ここで敦賀は投手交代し、本来主戦の(腰痛持ちらしい)、エースナンバー伊原君が登場。

 

 

 

伊原君は土屋君と違ってはっきりコントロールが良くない。荒れダマだがデットボールの心配はしなくていい投手。持ち味は恐いもの知らずのボールの伸びと、荒れダマ、ボールにある適当なムラのようなもので抑える投手だ。土屋君とはえらい違いだが、どちらにしろ見ていてヒヤヒヤする。思った通りに怪我から復帰の期待の三番玉村君に四球。そして福井商のキャプテン、四番のキャッチャー米丸君。さあ、意地と意地のぶつかり合い。

勝負の軍配はあっさりと米丸君に上がる。米丸君の打球は三遊間のド真ん中を悠々点々と転がってレフト前。当たりも強すぎないためにランナーは八尾当然のように三塁を蹴る。邪魔するものは何もないはず。レフトの松永のダメモトのバックホーム、クロスプレーか?それともカットバンの好プレーが見られるか?

 

 

 ずどん。松永のバックホームは、それはもうすごい球だった。ピッチャーより早いんじゃないかと思うボールがレフトからキャッチャーへストライク返球。何とクロスプレーにさえならずに八尾君の本塁突入を防いだ。今までいろんなバックホームにしびれさせられたが、これもしびれた。完全に一点取ったと思われた福井商業の流れを、一瞬で突き崩したすさまじいバックホームで、敦賀、首の皮一枚つながった。優勝したような騒ぎの敦賀ナイン。ガックリとうなだれた福井商。これはもう決まったか?

 

 

 しかし、野球はわからない。山岸君から変わった投手刀根君が松永君を三振に討ち取ると、続いて八王(やお)君セカンドゴロ。二番の古川君の打球などは一二塁間を完全に真っ二つに切ったが、頭部死球とスクイズと、今日は何かと話題性のある藤井君が芸術的とかいても及ばないダイビングで抜けるはずのボールに横っ飛びジャンプ一番空中で追いつき、そのまま一塁送球。高校野球見てきた中で、一番の大ファインプレーと思えるような、サーカス並の大ファインプレーで流れはまたも福井商業へ。好都合にも9回裏の攻撃は大当たりの伊原君。投手は変わった伊原君との伊原対決だが、流れが福井商だけにこれは福井商伊原君有利か?バッターボックスへ。

 

バッターボックス、伊原君、どんな打撃をする、と思うがはやいか、痛烈な打球をライト頭上めがけてふっとばす。敦賀ライトは松永君と並んですばらしい守備を見せる八王君だが、あっという間にそれを超えて2塁打。これも内野は安定しないが外野は超強力守備陣を誇る敦賀相手でなければランニングホームランがあったかもしれない。伊原君二塁塁上でガッツポーズ。集まって声をかけあうとんこーナイン。福井商は当然バントで送って一死三塁。ここでデットボールの心配がないはずの伊原君が山崎君に四球。そして盗塁。一打逆転さよなら。球場はすごい緊張感に包まれている。両チームスタンドの応援も、鬼気迫っている。打者は知場君。現レギュラーではないが春レギュラーメンバーだ。これが粘る。打球は一塁側へ大飛球二つ、バックネット裏に一つ。どちらも追い込まれた状況で、伊原君がラストボールを投げ込む、これがストライク見逃しの三振。しっかり見た、自信を持って見逃したはずの知場君がぶ然としている。上からではわからないが、とにかくきわどい球だったのだろう。わきあがるとんこースタンド、あきらめない福商スタンド、そしてグラウンド、ベンチは緊張感が目に見えるほどだ。

 すごい試合はまだ続く。そして、超ファインプレー、頭部死球、追撃スクイズ、と今日何度も魅せてきたラストバッター藤井君がバッターボックスへ。伊原君の渾身のボールは藤井君の渾身のひとふりに当たり、ボールはぼとぼととショートへ。ショート古河君、これを危なっかしくさばいて、ゲームセット。

 

 

 スタンドからは大声援だ、後ろの敦賀応援に来ていた人達も抱き合って大喜び。そしてもちろんナインは、もう満面の笑顔と、信じられないといった初々しい表情で喜んで抱き合っている。福井商は、くやしそう、というの通り抜けて呆然としていた。僕は三塁側を見て顔がほころび、一塁側を見て顔が強張る。特に山岸君の姿はあまりにも残念そうだった。

 礼。福井商、敦賀ナインは抱き合って健闘を称えあった。あせくさく、あまりにも汚れた美しさ。これを芸術といわずして何と言おう。若干大袈裟かも知れないが、そう感じた僕はスタンドの中で、周りの人達と一緒にただただ拍手を送ったのだ。

 

 

 監督インタビューはあまりにも感動しすぎて声が言葉になっていない監督の姿がこっけいで、また感動的でもあった。胴上げされ、何だか分からなくなっている監督と、結構落ち着いて、「敦賀港開港100周年ですから」とおとなのコメント林正太郎キャプテンのコントラスト。小太りの上島監督はなんか知らんけど選手一人一人捕まえて抱き着いており、そのたびにスタンドから笑いが起こる。抱き着かれた選手も笑顔で、「うわぁぁああ」と悲鳴を上げている。とことん個性派なチーム、甲子園では福井商ほどの成績の期待は出来ないかもしれないけど、清々しいプレーを期待させてもらおう。

 若狭、鯖江、そして福井商とあたったこの試合もいい試合だった。甲子園でどこまで自分たちの野球ができるのだろうか。

 

戻る