福井大会準決勝

 生活のリズムが狂いまくって、お昼まで寝ている所に電話が一本。セカンドコールで飛び起きて、ベット下の子機に手を伸ばす

「もしもし?」

「あ、山中君?いきなりやけど野球見にこおへん?」

 この日、僕はテレビで高校野球をのんびりみようと思っていたので、寝てる最中いきなりのトキさんの電話にはびっくりした。しかしながら、呼ばれて行かぬは野球好きの名折れ。寝てるのどうのと、かわいらしくゴネてみたが、相手にしてもらえず、電話を切ろうとするので、口答えせずに最初から行く事にした。今日は北陸OBのキジ君も来ているらしい。

 顔洗って歯磨いてさっと着替えて寝ぼけまなこをこすりこすり車に乗り込み、アイスコーヒーを飲んで無理矢理に目を覚まして球場に向かう。そういえばテレビ中継開始時刻に合わせて目覚し時計をセットしたが、車の運転中に家で鳴っているのだろうか、二個のやかましい目覚まし。さぞかし隣のY君もうるさい事だろう。あまりのうるささにギターを破壊しなければいいが。どーでもいい事を考えながら球場に向かう。


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スコア

福井商

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北陸

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0

0

1

2

−強い強い福井商

 

 僕が球場についたころ、は六回裏の北陸のチャンスだったが、いつぞやの豪腕から、すっかり粘りの投手に変わってしまった吉田君をとらえられない。球場に入ると、今までは全く無かったブラスバンドが、ついに登場している。昨日までの寒々しいスタンドではなくなった。試合そのものは北陸有利らしいが、どうも疲れ、硬さがあるようで、得点が奪えない。それにしても北陸高校、一回戦の武生商はともかく足羽、敦賀気比、続いて福井商、組み合わせがきびしすぎる。そりゃあ疲れるだろう。あと一本がどうしてもでない。

 福井商側に立ってみると、いつやられるか分からない危なっかしい展開だ。どちらがわから見ても、イライラする事この上ない展開だが、中間に立ってみるとこんな面白い試合はない。

 

 

 ピンチというピンチをすべて紙一重でかわす福井商、その試合巧者ぶりの本領を見せたのは、8回の攻撃。何でもない外野フライをエラーした北陸守備陣からそつなく二塁を落とし入れると直後にタイムリー、そして安打犠打に、タイムリーエラー。動きのいいはずの北陸守備陣にことごとくプレッシャーをかける福井商が、相手のミスに乗じて二点を加点して勝負を決めた。

 と…思いきや、決まらないのが金属バットの高校野球。今度は9回、福井商が失策。続いて安打で攻めたてる北陸が一点を返し、なおも二死二塁。半分眠っていた僕も、さすがに手に汗握る。一打で一点差となり、また一発出れば同点。しかしながら打球はショート正面へ。ここで北陸二塁走者が神技を見せる。スタートを切るランナー、遊撃は低くて速い球足のゴロをまって盗る捕球体勢に入る。二塁走者は一瞬スタートを切るが一度ストップをし、タイミングを合わせてもう一度スタートを切り直す。そして、ショートゴロと交差して走っていったのである。高校野球で、ボールの前に立って、来た瞬間に走り出したり、ボールをジャンプしたりして補給を邪魔する走者はよく見かけるが、交差していったのははじめてだ。遊撃から見て、捕球体勢に入ったはずのゴロの前にいきなり走者が現われ、左足で隠し、次に右足が入る。その右足がずれた所からボールが出て来る為、バウンドが非常に読みずらいほか、タイミングを大きくずらされたはず。だが、何と福井商遊撃は、これを危なげなくさばいた。こちらも素晴らしいプレー。お見事。

 

 

 結局最後のあがきも実る事なく、北陸高校は福井商に敗れた。福井商は勝って当然といった顔で球場を去る。そして現れたのが、鯖江、敦賀の両チームだ。鯖江はシードから順調に勝ち上がり、強豪福井を5−0で下して波に乗る。対する敦賀は若狭との死闘を制して、サヨナラ勝ちして登場。両チームとも前日敦賀運動公園球場だったが、今日は福井県営球場にお目見えし、闘う。

 さて、そんなことはいいとして、試合が始まる前に僕を呼んだ二人を探さねばなるまい。と思ったら目の前を通り過ぎた。キジ君の腕をつかむ。

「おいこら」

「おぇあ?ああ、お前か、探しとったんや。」

ジュースを抱えて彼は言う。探していたのなら目の前に僕が座っていたのぐらい分かってくれてもよさそうなものだ。帽子をかぶっていたからわからなかったのだろうか。

 

 

 彼の案内するところにはトキさんとかが座っていた。北陸の試合が終わった後なので、OBの人たちが帰って、バックネット裏が結構空いている。バックネット裏席で野球を見ることができるのは、地方大会のもっとも大きな醍醐味であったりする。

僕「見ましたかK(トキ)さん。」

ト「んー?」

僕「いやあ、セカンドランナーがボールがくるのを待ってからスタート切ったでしょう。」

キ「あー、俺見た」

ト「ちょっと俺、わかれへんけど。」

僕「あれすごいで、福商の子もよお補ったわぁ」

キ「あれ守備妨害とかにならんのけ?」

僕「ん、わざと野手にぶつかっていったりしたら、インターフェアランスやな。あとは、走塁方向と野手がかさなっとった場合は、突き飛ばそうが飛び越えようがインプレーや。あと、ボールにぶつかったり、蹴飛ばしたりしてもインターファアやけども、さわっとらへんからええんや、あれは。神業やで、あれ。」

キ「そうなんや。」

僕「ドロップキックとか、コブラツイストはあかんけどな。」

ト「コブラツイストなんかかけるひまあらへんわ。球場でかけとるやつおったらびっくりするで、あーホンマ。お兄さんビックリや。

大声で恥ずかしい会話をする僕。天気がいいので気分がいい。突っ込みいれるトキさんがわけわからないが、あまり気にしないでおこう。

「それはそうと、ブラバン今日から出てきよんのやな」

とトキさん。

「福井は準決勝ぐらいからやで。」

とキジが言う。

「普通は一回戦からおるもんやけどなあ…」

やっぱりプロ野球よりアマチュア野球が盛んだったりするお国柄らしく、バッティングセンターもやたらうまい人がいる。が、草野球ばかり盛んで、大学野球すらこれでもかというほど盛りあがらない。自然、野球を応援する空気というものは薄いらしい。野球は見るよりするもの、ということか。

 

 

 

トキさんは、

「あー、あーァ、ん、んん。さて、さてさてと。山中君ジュース買ってこよか?」

と、今日のメインは終わったってな感じで伸びをした。僕はシード校である敦賀の試合が楽しみだが、トキさんとキジ君の間ではどうも福商が優勝するということで意見は一致しているらしい。ジュースを頼んだ。

「もしもし、ああ、今どこにおるの?そこか。そんなら、そこまっすぐ行って、うん、ベルわかる?…」

とは携帯電話でキジ君。今日は敦賀高校に縁があるらしいM君が来るとかだ。

 

 

 

 前置きしておくが、僕は野球の内容を良く忘れる。そりゃあもう真剣に見るのだが、試合そのものより、野球のプレーが好きで、野球のプレーより緊張感が好きな質らしく、あの横浜PL延長17回も球場で生で見ながらあんまり覚えていない。同じように、恥ずかしい話ながらこれから(99年10月8日)書く鯖江対敦賀の試合も、きれいさっぱり忘れている。ただ興奮した事だけは覚えている。99年、甲子園を含めて高校野球ベストゲームを挙げるとしたら、迷う事なく、これを挙げるだろう。それぐらいすさまじいゲームだった。これを生で見ていたときの感動といったらなかったものだ。ただ、試合内容を覚えていない、という致命的な欠点がある。スコアシートでもつけようかな…。

 

 ともかくも、その試合の姿を分かってもらうために、いつもなら最初に持ってくるスコアボードを、この試合最後において書いてみる。

 

 さて、ノック。さすがに福井県、お国柄。両校とも守備練習がうまい。が、敦賀高校、内野がバタバタしている。守備練習にはさほど時間を費やしていないようだ、が、外野ノックは右中間、左中間に長打を狙うノックだった(科学技術高校と同じ)。あわやスタンドイン、という球を打つ上原監督。それを簡単そうに取る敦賀外野守備陣。おそらくは、フリーバッティングなどの球拾いを一生懸命しているんだろうな、と思う。見ながら

「おー、科技高ノック。」

と、ぼんやり僕が言う。答えて

「おー、長打狙いや、スゴイな、取りよんで。はじめてみたわ。」

 とトキさん。ここのあたりからトキさんが兵庫県大会の話をしてくれる。

「兵庫は、まあベストエイトぐらいからは守備ええんやけど、それまではキャッチャーフライ監督打てへんで投げよるところがあるんやわ。あとな、キャッチャーフライがスタンドインしたりな。」

「うーん。多分元卓球部顧問とかそういう人なんでしょうね。ま、キャッチャーフライ打つ前に、ノック終わりです、とか言われるところとかよりマシやないですか。」

「あー、あるよな。あれ。監督キャッチャーフライ打てんで欲求不満になってたりするんやな。」

どうでもいい話をしていたら、M君が登場した。

「おー!K君。」

そんな所へちょうど敦賀高校ブラスバンド部が音あわせをしだした。

「レベル高いな。」

とトキさんとはなしていたらM君が、紹介してくれた。なんでも敦賀高校のブラスバンド部は毎年レベルが高くて、敦賀気比高校が甲子園に行ったときも、演奏してくれるらしい。

「はァ。」

釈然としないのは僕だ。これだけ音あわせでいい音を出す鶴賀高校が、敦賀気比の応援の時はなんであんなにやる気無い応援をするのだろう。

余談だが、敦賀高校のブラスバンド部は実際レベルが高いらしく、甲子園で聞いた時もすごくいい音を出していた。どうやら、周りの応援とマッチしていないため、ブラスバンドが生きていなかったとか、そういうものらしい。

 

とことんまで話がズレたところで試合が始まった。

 敦賀先発は土屋君。ボールがシュート回転する、癖ダマの持ち主ながら、横手投げではなくてオーバーハンド。食い込んでくるストレートと、あまり変化しない変化球(カーブだけ?)だが、長身から投げ下ろしてくるからこれが打ちにくい。コントロールは悪くないが、たまに思ってもみない方向にいくらしい。落ち着けば良い投手なのだろう。一回、二回と独特のフォームで投げ込み、鯖江を押え込む。

鯖江先発はエースナンバーをつけた左腕、森本君。見るからに気が強そうな投手。スナップスローから投げる伸びのあるストレート、それにカーブ、あと落ちる球ををもっているようだ。しかしながら、スナップ投手の特徴としてボールが見やすいのが残念なところだ。せっかくの左腕。オーバーハンドから腰の回転で投げて欲しいところ。が、球威は十分、ただ、やはり変化球は疲れからかあまりよろしくないらしい。敦賀打線は乗り始めると手がつけられない上に、鍛えられた精神力から生まれる集中打が身上だ。失策でリズムを崩した森本君に襲い掛かって、たちまちに3点を奪った。スナップ投手というのは一度とらえられるとタイミングが合ってしまうものだ。鯖江高校、早めの継投で一塁を守っていた右本格派、牧田君とポジションチェンジした。牧田君のほうは体全体を使ったフォームから適当に荒れるストレートとカーブ、それとあまり変化しない変化球を持っているようだ。こちらは相手のリズムを徐々に奪うかのような柔軟な駆け引きを見せる。

 そのピッチングに応えて、というわけではないだろうが、4、5と鯖江は点を奪う。デットボールの多い投手、土屋君はそこからリズムを崩しそうにはなるものの、精神的に落ち着かなくなるとタマがあれ、それが逆にとらえにくいところになるのかもしれない。ともかくも、落ち着かない試合だ。緊張感はあるものの、両チームとも、相手をとらえられなくて中盤あたりから早くも焦ってしまっているようだ。いい試合なのだが、土屋君はいつデットボールを出すかわからないし、一方の牧田投手は練習の時あれだけ良かった内野守備に足を引っ張られたりして、どうも落ち着かない。だが、その試合を引き締めるのが、足を引っ張っているかと思えば動きが良かったりする鯖江内野陣であったり、落ち着かない土屋君が打たれても、難なく外野の飛球をグラブにおさめる敦賀の鉄壁の外野陣であったり、このあたり妙な試合展開で、何かが起こりそうな気がしてくる。

で、何かが起こる。8回、例によって死球から崩れる土屋君、ついにはデットボールでヘルメットを割ってみたりして鯖江高校の闘争心に火をつけたりして、落ち着かないことこの上ない。

「コントロールはいい投手なんですけどねえ。」

「ほんとになあ。フォアボールはほとんど出してないもんなあ。」

「危ない、ですけどね。」

「さすがに変えたほうがええで、気の毒やけれども。」

 同情して良いやら悪いやら、僕とキジさんはなんか複雑な表情で試合を見る。

土屋君、ワンストライクツーボールからわざわざ一球はずすなど、コントロールに自信のあるところを見せるが、あのへんは無我夢中で、別にコントロール云々ではなかったのかもしれない。8回の大ピンチ、何だかんだで、ぐちゃぐちゃながら敦賀は一失点で抑える。鯖江高校は勢いに乗りながらも、点が奪えない。

 そこへ敦賀高校、とらえきれなかった牧野君を何とかつかまえて一点勝ち越し。一気に緊迫した試合展開。それでも、もう余力もなさそうに見える鶴賀、鯖江が一点負けながらも試合の主導権を握っているように思われる。

 

 

 鯖江高校は9回表の攻撃、土屋君から変わってエースナンバーをつけてマウンドに登場した伊原君を攻め、安打、連打、3連打。土壇場、なんと、満塁で鯖江高校、マウンドを降りたエース森本君に打順が回る。どうもしっかりしないとはいえ、内野を集めてマウンドでピョンと伊原くん。ヘルメットの影から眼が光る、ネクストバッターズサークルに、手袋をさすりさすり森本くん。さあ、来た試合のハイライト!一打逆転、凡退終了、漫画になりそうな実に面白い展開。

「うわっ、あれ。ちょっと見てみ、山中君、あれ。」

「はい、見てます見てます。ハハハぁ…、エースの子が。すごい顔してますねえ。」

「うん、森本君かしらん、すげえおいしい場面まわってきたって顔しとるわ。」

点を取られた屈辱もあろう。四番の意地もあるだろう。不敵に笑う森本君、ゆっくり左打席、ヘルメットの奥、眼が光る光る。

「こぉいうすごい場面で、よーもまぁ笑ってられますよ。これはやっぱ彼有利でしょう。しっかしむちゃくちゃ嬉しそうですよ、あの子」

「うん。先に打たれとるしな、あれはとりかえしたるでーって顔しとるし。打つんちゃうか。」

 対峙すること二人。目がらんらんと輝く森本君。開き直ったか伊原君。伊原君の手から投げられた運命のボールは、森本君、実にしっかりしたステップから、豪快なフォームでものの見事に弾き返す!打球はライト頭上を襲い、打った瞬間行った!と思った。敦賀応援のM君、

「なんやぁー!!(怒声)」

 その打球、ライトの八王君の頭上を一瞬で越え、フェンス手前でラインドライブがかかって落ちる。堅守を誇るライト八王君がクッションボールをすぐに裁いてランナーを二人帰すだけで止めた。それにしても見事な逆転タイムリー。敦賀の上原監督、これはたまらんと右打者上野を迎えて、ライト、レフトのポジションをチェンジして時間を取る。レフト、ライトとも堅守、そして超がつく強肩である。それでも変えるあたり、よほど間がほしく、そしてその日再三の好プレーを見せたの八王君の守備に期待したに違いない。が、鯖江、これでも勢いはとまらず。もう一本ヒットを重ねてこの回5連打4得点。勝負を決めたかに思われた。なんせひっくり返して3点差である。M君などはもう、

「あー。せっかく見にきたのに、なんやぁあ。頑張れよォ。」

と半分試合を投げている。

 が、粘る敦賀、続く9回裏の攻撃。ヒットで塁に出た二番古川が、二塁に進んで一死二塁、バッターこちらは敦賀四番威風堂々と右打席に中島。これも豪快に低めのボールを左中間。一点返して、さらに志気に火をつける大三塁打。そして、頼れるキャプテン林正太郎。今度はうまく追っ付けて自らが逆転のランナーとなるセカンドオーバーのタイムリー。

「おぃ!」

と大興奮の僕。試合はわからない。中島はゆうゆうホームイン。ボールはセンターが前進する。そしてライトも前進、その、ちょうどど真ん中にボールが落ちる。

「おいおい!!」

とトキさん。

ボールは転々と抜ける。林は一塁を当然蹴る。二人で追いかけてボールを取ったころ、林は三塁に到達する。

「おいおいおい!!!」

とキジ君。

「これはもしや…」

「ホームまで来る!!」

何を思ったか中継はわざわざ遊撃に向かってボールを投げる。ボールはどこへ投げていいかわからない内野陣の手をもたもた。

「オイオイオイオイ!!!!!」

 M君の大絶叫と共にキャプテン林正太郎は、そのままホームを駆け抜ける。まさに起死回生!まさかまさか、絵に描いたような大逆転のあとの、奇跡の同点ランニングホームラン。漫画家も書かないような劇的な展開だ。

「うわー…。」

「すごいな、これは…。」

ものすごい興奮に包まれる福井県営球場。

やったわ、すごいわ。相手の守備が下手やった。」

と、大興奮のM君。キジ君は笑っている。

「あれ、あんなんせんかったらホームまでこんのに。おもしろすぎるで。」

そんなかわいそうなことをいうてやるなよ、キジ君。ここは打った方を誉めてあげよう。さすがキャプテン、えらいぞ林!

 

これは、もう敦賀の逆転勝ちだろう、と思ったところに、もう一度、帽子の中の眼妖しく輝く背番号1番。森本君が再びマウンドに登場し、一気加勢の敦賀打線から二つの三振を奪ってこの試合をますますわからなくさせる。

 

 そして、今度は敦賀エース、伊原君。よせば良いのに自滅する。何と、フォアボール、そして暴投だ。何にも関係ない僕が

「何をしとんねん!」

と突っ込みを入れる。伊原君、8回まで投げた土屋君のリリーフなのに、延長11回までの4イニングで暴投二つにボークが一つ。しかし、そこまで荒れると今度は鯖江高校が打てないのか。手に汗握る攻防戦はバタバタしながらも敦賀守備陣、なんとか抑えて延長11回裏。

 11回裏先頭打者は第三塁打の中島。バットに軽く乗せてライト前。キャプテン林が送る。打者窪園で中島はスティールを敢行し、なんと成功。窪園倒れて打者7番サード品川。鯖江エース森本、ボール気味に落としたカーブに品川のバットはコツンとかすって三遊間を転々し、中島が決勝のベースを踏んだ。

 当然のように敦賀側は歓喜の渦。鯖江側は完全燃焼という感じで、肩を落としながらも、笑顔が見られた。


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鯖江

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敦賀

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8

−史上稀に見るシーソーゲーム〜野球の神髄ここにあり〜

 

 しかしすさまじい消耗戦。これを制した敦賀、二試合連続のサヨナラ勝ち。さすがに勢いはつくし、ムード最高だろうが、いかんせんバテているだろう。

「明日、どうスかね。」

と、トキさんに振ると、

「いやあ、これはすごい試合やったけどねェ、悪いけど福商がかつね、残念やけど。」

とM君の前だから気を使っているのか、歯に衣着せてそう言う。キジ君もそうだとあいづちを打つ。

大会前の予想では、敦賀気比を本命、敦賀を対抗に押したはずの僕も、今日の試合ぶりを見ればそう思う。しかしながら、みんながそういうと、なぜだか悔しくなって、

「いや、野球だから何があるかわかんないですって。敦賀はシード校ですし、なんてったって勢いがありますから。」

とか言って見る。言った後に思い直す。そう、野球は何がおこるかわからないのだ。目の前でそういう試合を見たじゃないか、と。

 

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