選手権福井県大会1回戦

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スコア

敦賀気比

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2

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1

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1

0

4

科学技術

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−好投手さわやかに一回戦で消え、高校球界に新たなる怪物が登場

 

 1999年の福井県大会は戦国である。比較的レベルが高い福井にだが、敦賀気比の監督交代から山岸、吉田を擁する福井商の絶対優位と思われた春だが、山岸の故障、春季大会での吉田のスタミナ不足露呈と王者を揺るがす要因が福井商側から噴出。ライバル、敦賀気比は、渡辺監督こそ辞任したが、最後の教え子となる吉岡を擁する。さらに古豪の敦賀、新鋭の鯖江、科学技術が台頭。加えて敦賀気比の元監督、渡辺氏の福井高校監督就任。

 以上の要因により優勝候補は、福井商、敦賀気比の例年の二強に加え、福井、北陸の私学勢、敦賀、若狭の嶺南勢に鯖江、科学技術を加えた大混戦となっている。若干レベルが低いきらいがあるが、こういう戦国トーナメントは勝ち上がるたび強くなるということがある(精神面)。

 一回戦、最も注目すべきカードとしてあげられたのがいきなりの優勝候補同士の対決、敦賀気比VS科学技術。敦賀気比は春季大会まさかの一回戦負けを喫し、科学技術は好投手投手竹森・好打者西村を擁しシードを得た。もともと29校しかない福井だから、組み合わせによってはこのカードがいきなり実現する。秋季大会では科学技術が敦賀気比を下している。しかし敦賀気比の大型チームぶりは戦前から高く評価されていた。監督が誰だろうが、これだけの有力校はほっておいても選手が集まってくる。これからもしばらく敦賀気比は強豪でありつづけるだろう。

 

 

 僕が球場につくと、大野東と春江工業の大乱戦がちょうど終わったところだった。そこそこのいい席を見つけ、ノックが始まるのを待つ。

 まずは科学技術高校のノック。この科学技術のノックだが、内野守備はごく普通なのだが、外野守備のノックがとんでもない。科学技術の監督、まず、レフトライン際に一本、続いて右中間、左中間、センターフェンス前大飛球、ライトライン際。全部長打コースに打っている。また打球が良く伸びる。どんなノックバットを使っているのか、気になるぐらい伸びる。もしかしたらノックバットなんて気のきいたものは使ってないんじゃないか、と思うぐらい、フェンスぎりぎり、あるいは右中間への低空ライナーが伸びていく。これをまた科学技術の外野陣がワンバウンド、どうかするとノーバウンドで捕球する。えらい外野守備力。そういえば、近年は内野守備は相変わらずドタバタだが、甲子園でも外野守備がやたらいいのは、こういうノックが増えたからかもしれない。

 続いて敦賀気比のノック。ドタバタしている。大体守備力もいいかげんで、ノックの球も遅く、送球も高かったりでいいかげんなのだが、肩だけはやたら良いし、何より声が出ている。おそらくは守備練習というよりはウォームアップの方に重点を置いているのだろう。三塁、遊撃から矢のような暴投が一塁の頭上を襲う。後ろではおっさんが会話。

「ほれま。三塁から一直線やもん、信じられん。」

実際信じられないぐらいの送球が三塁から一塁へ。遊撃から一塁へ。これが試合前のボールまわしになると全部胸の前にいく。さすがに前監督の練習をそのまま引き継いでいるであろう敦賀気比、守備はなかなか鍛えられていそうである。

 

 

 敦賀気比のスターティングメンバー発表。一番投手で背番号6藤田。センターに吉岡。ナめているのだろうか。シード校相手にエースを登板させない。下手をするとこれは敦賀気比一回戦負けか、と思って見る。藤田君などどこにでもいそうな投手で、さほどに良いようには見えない。バックネット裏特等席では福井商の選手達が陣取っているから、さては吉岡君を隠し通すつもりかもしれない。そんなにうまくいくものか。負けてしまえ敦賀気比。なんだか腹が立ってきた僕はそう心の中で念じる。

 一方の科学技術、好投手竹森がテンポよく投げ込む。が、これを敦賀気比打撃陣はとらえかける。科学技術は堅い守りで得点を許さないが、あるいは打撃戦の予感を感じながら一回の表が終わる。

 強肩遊撃手の藤田。さほどコントロールが良いわけでもなさそうで、荒れダマでもなさそう。で、テンポもどうなんだか良くわかんないテンポだが、その特徴の無さが特徴のようで、どうたたかっていいかわからなそうな科学技術、通称カギコー。この藤田君いきなり四球を出すなどあまりよろしくないらしい。注目の打者西村君の活躍など見えるが、意外と守りの良い敦賀気比がタイムリーかと思われたものを中継からホームで刺殺。一回の裏もゼロ。

 

 

 藤田君もそんなに良くないらしく、やはり打撃戦か。藤田君は良くないながらものらりくらりと抑える。球はちょっと速いぐらいだから、もうちょっと打てても良さそうだが、敦賀気比なかなか守備が良いのだ。

一方竹森君の方は小気味良くストレートを投げ込む。しかし、これを敦賀気比はほぼ捕えかけている。強い。こんなチームが何故春季大会一回戦負けなのだろう。監督が代わったような弱みなどはみじんも感じさせない素晴らしい強さ。だが、藤田君だけが心もとない。両チーム守備で抑えているが4回に試合が動く。四回表敦賀気比は吉岡のヒットなどでチャンスを作り7番小林のレフト前タイムリーで二点を先制。

景気よく応援する敦賀気比野球部応援団。ユニフォーム姿にメガホンで一点取るごと

「おー、かっとばせぇ!」

「も一つおまけに」

「かっとばせえ!」

とまあ、むさい応援で野球部を盛り立てる。明るく楽観的な応援で、余裕すら感じる。

科学技術高校のほうは、鬼気迫るような女の子の悲鳴ばかりで、守備が始まる毎に

「守ってー守ってーまーもーりーぬーけー」

ってな応援を女子中心の応援で耳にキンキン響く高音で叫ぶ。別にそんなに敦賀気比ペースでもないのだが、応援を見ていると、なんだか敦賀気比ペースに見える。好投手、竹森の力投、ホイホイと余裕っぽく押えながらも、結構とらえられがちな敦賀気比。監督はかわったが、名門の試合巧者っぷりを身につけたらしい敦賀気比サイドが、どうかすると科学技術のほうが押しているように見える試合ながら、得点と試合運び、そして応援だけで球場の雰囲気を敦賀気比のワンサイドっぽく演出している。

 

 

 

そしてそこに5回に試合を決めるリリーフが登場する。

 左の長身投手、内海君だ。大会が終ってから知ったことだが、この内海君、2年生らしい。角度のあるストレートは、高めより低めのほうが伸びる感じがする変な特徴を持った投手で、藤田君の後に出てくるとこれがまた速い!おそらくは130キロ台の後半は出ているであろう球速、サウスポー特有のカーブ、ちょうど福井商業の吉田君を長身にしたような豪腕。

 正直度肝を抜かれた。これは吉岡君がいらない。この内海君、結局その後ただの一本のヒットも許さず、五回8奪三振の素晴らしいピッチングで科学技術の後続を断った。底抜けに明るい敦賀気比のへっぽこ応援と、悲壮感あふれる悲鳴応援の差がこれまで以上にくっきりし、圧倒的な力(実はそんなもの持っていないかもしれない)を見せ付けて敦賀気比が見事試合の流れを自分のものとした。

 6、7回にも追加点を加えた敦賀気比の点差以上の圧勝劇。すでに5回以降は内海君のピッチング以外特に注目すべき点はないといって良い。これに吉岡を加えたら、これはもう素晴らしい投手力。戦国福井にあって、まだまだ横綱を張る敦賀気比。昨年はケガで東出にマウンドを譲った吉岡君の夏はまだ続く。

 

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